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なんだこのクニは、なんだこの差別は?

2016年04月08日 09:16

大学非常勤講師三重苦=奨学金ローン地獄高学歴ワーキングプア・人間破壊生命の危機|首都圏大学非常勤講師組合・松村比奈子委員長
大学非常勤講師三重苦=奨学金ローン地獄高学歴ワーキングプア・人間破壊生命の危機|首都圏大学非常勤講師組合・松村比奈子委員長
2015/8/24etc., 貧困と格差コメントを書く

ブラック早稲田大学刑事告発教員の6割占める非常勤講師4千人を捏造規則で雇い止め」に続いて、私が編集した首都圏大学非常勤講師組合・松村比奈子委員長へのインタビューの一部を紹介します。「高学歴ワーキングプア」の典型と呼べる大学非常勤講師の実態告発です。この大学非常勤講師の問題は、新雑誌『KOKKO』で新たに取り上げるべく準備中です。(※このインタビューは、2013年6月に行ったものです)

首都圏大学非常勤講師組合 松村比奈子委員長インタビュー
非常勤講師の44%が年収250万円以下の高学歴ワーキングプア

組合として非常勤講師アンケートにとりくんでいるのですが、2007年のアンケートには1,000人以上の回答があったのですが、その中で、非常勤講師だけで生活している、いわゆる専業非常勤講師は約6割で、平均勤続年数は約11年、平均年齢は40代半ばでした。平均年収は約306万円ですが、そのうち44%は年収250万円以下、いわゆるワーキングプアと言っていい年収なんですね。また非常勤講師の基本的な給与は、一般に90分の授業を1コマと言いますが、1コマ当たり月2万5,000円が平均です。年間だと1コマ当たり30万円ということになります。だから年収300万円を稼ぎ出すとすると、10コマ程度は必要になる。授業は90分でも、直前直後の準備もありますから、1コマ当たり2時間労働と考えられています。そうすると、今、日本の労働基準法では上限は40時間ということになっていますから、10コマやって20時間で300万円程度にしかならない。ギリギリ全部のコマを持ったとしても600万円という、非常に苦しい状況ですね。ちなみに大学の授業の90分というのは学部によって中身に違いがあって、語学は学生に話をさせたり小テストをやらせたりするということで教員はしゃべらない時間もいっぱいありますが、少なくとも法学のような社会科学系の授業では90分ずっと先生が話し続けるということも珍しくない。そうすると、2時間労働というのは結構な重労働で、週10コマでもヘトヘトになります。また、非常勤講師というのは、採用される際に業歴が必要で、大抵の場合は研究歴ですから、研究のための論文を書いたり本を読んだり学会で発表したりすることも必要です。そうすると、やはり研究者ですから教育時間と同じくらい研究時間も欲しい。となると、10コマやって、かつ研究時間も確保してというのは、大変難しい状況です。

さらに非常勤講師の大変さが分かりにくいのは、細切れパート労働ということです。その10コマが1つの大学でだけ行われているならば、その大学に朝行って、授業をやって帰ってくればすむ話なのですが、それが複数の大学で掛け持ちしているわけです。たとえば私は5つの大学で教えているのですが、1日2つの大学に行ったりすることがある。そうすると、たとえば自宅からA大学に行って授業をし、それが終わったらすぐにB大学に移って授業をし、そこから自宅に帰るということになると非常に通勤時間が長くなるんです。私は今、週4日教えていますが、その通勤時間が平均して往復5時間なんです。それだけで旅行になってしまうんですよ。私は1日に最大3つの大学で教えたこともあります。1限目にA大学、3限目にB大学、5限目にC大学で教える。するともう体力の限界ですね。これは半年やって持つかなと思っていたんですが、幸い半年で1つ授業が終わってしまったのでホッとしました。それでも表向きの労働時間は4時間半でしかないわけです。換算しても6時間です。でも体力的には1年も続かないくらい大変。それくらい、非常勤講師は通勤などの手間がかかるんですね。

非常勤講師三重
――過去・現在・将来

――非常勤講師にはどのような要求がありますか?

アンケート結果を見ると、やはりいちばんの不満は賃金が低いことです。非常勤講師の44%が年収250万円以下で、また、研究者として扱われないという問題もあります。同じ仕事をしている専任教員研究者として大学から書籍代なども支給されますし、今は随分変わってきたそうですが、学会に行った場合に学会費の一部や懇親会費の一部が補助されます。でも非常勤講師にはまったく何も出ません。また研究室もないわけですから、自分の家で勉強しなければいけない。そうした様々な不利益があります。そのように、研究者として扱われないにも関わらず研究業績は専任と同じように要求され、賃金は低いということです。

そうしたことから、非常勤講師には3つの不安があります。

第1の不安は過去の不安です。非常勤講師はほぼ全員が大学院卒です。となると、成人後も大学に通い続けるということなので、通常なら働いている方達が働かずに大学に通うことになります。その場合の経済問題が後になってのしかかってくる。多くの方は親も年老いていますから、親に頼るのは忍びないということで、実はかなりの方々が日本学生支援機構奨学金を借りているという実態があります。大学院奨学金は高いですから、たとえば私は今から25年ほど前に奨学金を借りましたが、ドクターの3年間だけで300数十万円です。それだけの借金があります。今もまだそれを返している途中ですが、大学の学部生からマスター、ドクターと続けて奨学金を借りた人は1,000万円近い借金があるわけです。ですから、まずそれを返しながら現在の生活を送るということで、過去の不安を引きずるというのが1点目にあります。

2つめは現在の不安ですね。給与が低い上に、非常に不安定で、おまけに労働契約法の改正で5年雇い止めなども行われつつある。今は5年雇い止めは影を潜めてきましたが、6カ月のクーリング期間をおけばまた再雇用できるという項目があるので、それをやろうとしている大学が実はたくさんあるんですよ。これについても、もちろん私たちはいずれ追及していく予定です。そういうことで、ますます不安定化しています。

3つめは将来の不安ですね。今の状況だと細切れパートなので、1つの事業所で4分の3以上勤めることができない。そうすると厚生年金に入れない。健康保険国民健康保険のみです。だから国民年金国民健康保険を払い続けていかなければいけない。そして老後はもちろん退職金もありませんから、国民年金で生活することになりますが、国民年金は現時点で月6万数千円しか出ませんので、当然それでは生活できません。そうすると将来は生活保護じゃないかということになってしまうんですね。だから過去の不安を抱え、現在も不安を抱え続けて、しかも将来にも何の展望もないという三重苦なんですね。そこが非常勤講師の精神的に辛いところだと思います。

大学の授業は無料で奨学金生活費として
国家からサポートされる北欧

北欧などの国々は人材教育には熱心です。そうした国々では優秀な人材が欠かせないということで、大学までの教育費を無償にし、なおかつ奨学金を出す。日本人の感覚では「大学の授業が無料なのに、なぜ奨学金が出るんだろう?」と思いますが、その理由は、大学で勉強している間は生活費を稼げないから、その分を国家がサポートしますよということなんです。

――教える側がワーキングプアのような状況の国というのは、北欧では考えられないでしょうね。

そうですね。私たちは非常勤だからというだけではなく、教員として教えることが好きだから学生には喜んで教えています。そうすると学生に「将来はぜひ先生のようになりたい」と言われることがある。

だけど、当の私たちがワーキングプアなわけです。学生に対して、「私たちみたいに優秀なワーキングプアになりなさい」とはとても言えません。学生が尊敬する相手がワーキングプアでしかないというこの国の矛盾を、国家はもっと考えるべきだと思いますね。自分の足下に不安を抱えながら必死に教えている先生を見本に育つ学生、その将来も結局ワーキングプアでしかないわけですからね。それは日本という国の大きな問題だと思いますね。

非常勤講師自身が労使関係を確立する必要がある

――私は早稲田大学出身で、文学部だったので非常勤講師の先生がたくさんいました。ある先生に年収を聞いたら100万円という答えが返ってきて、とても衝撃を受けました。今でも大学院に残って非常勤講師をしている友達や先輩もいます。この問題を解決していくためには当事者連帯して労働組合を強くして、きちんとした労使関係を確立していく必要がありますね。

それがいちばん大事なことですね。もともとこの問題が起きる前から首都圏大学非常勤講師組合に早稲田非常勤講師の仲間もいたのですが、この問題が起きてから随分組合員が増えていますので、きちんとした労使関係をつくれるところまで頑張りたいと思っています。

ただ、非常勤講師の方に依存という問題もあるんです。現代社会教育は、基本的に自立した人間が連帯するということを前提に考えられています。だから労働組合もそういう方向性で、その権利は憲法28条で保障されています。ですが、非常勤講師という仕事を長年やっている方は、自分で考えるという訓練が十分にされていないことが多いのですね。

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