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干拓地奇譚(20)

2010年03月22日 17:15

クルーザーはいつのまにか、かなり速度を緩めており、そうして右前方、やっと靄めいた雰囲気が快晴へと向かいつつある早朝の A 海の凪いだ海面に、おかしな具合に平たい、「不自然な」島がかなり近づいてきた。人工島、M 島である。

おいちゃんは船室の舵を放置しているが、速度と方向はすでに注意ぶかく調整されていて、島に対して左から回り込むような感じで接近している。凪いでいる水面は、まるで沼かなにかのようだ。

灰色の船体の船が一隻、それに、白のかなり大型の船が接岸しているのが見える。灰色のやつは、一目見ただけで素性が理解できた。M 港海上保安部の巡視船だ。もうひとつの船は。。。何の船だろうかと尋ねるため、おいちゃんの顔を見て、なんとなく質問の言葉をのみこんだ。

おいちゃんの「あれを見てみろ」という言葉。単に、先客があるぞ、という事を示唆したわけではない、ってのがすぐわかった。

コンクリート製の、建造物の土台に見える、少々高くなってる部分が岸壁の奥にあって、そこで、黒い人影が数名、どうやらこちらを見ている。その連中のうちの二名、かなり大型の双眼鏡で俺らのクルーザーを、見ているわけ。で、一人が突然駆け出して、停泊している比較的大型な船へと駆け込むのが見える。で。。。。よく見ると、その白い船。なんか、武装してね?船主の、あの特徴。海上保安庁の中型巡視船を写真で見たことがあるけど、20mm多銃身機銃だっけ、それとその装甲板。でも、船体にはあの "Japan Coast Guard" のサインはない。民間船が武装してるわけねえしなあ。あれは機銃じゃあない、のかな。。。

これ、なんだか、これから釣りをやるっていう興奮がどんどん、どっかへ消し飛んでいくよ。あんだけ必死で家を抜け出してきたのになあ。あの連中に監視されながら釣りかよ。。。

「まあ興味本位でながめてんじゃねえわけだ、な。歓迎されるぞお。ふっふっふ」

帽子サングラスで隠れたおいちゃんの顔にうかぶ表情は、どうも見えにくいんだが、やはり皮肉な笑みを浮かべているように思える。先ほどの暗澹たる記憶の欝状態から抜け出てない俺が、こめかみの軽い痛みをおぼえつつ、おいちゃんをある種必死で観察しているのを、彼は自覚というか、予定してたのかも、と考える。

晴天。俺たちのクルーザーはやがて、どうも荒れ果てた感じのする岸壁に接岸し、おいちゃんが非常に手際よく岸壁への接近、停留の作業をはじめる。即座に、三名のおっさんたちが俺らの船の接岸地点へと歩いて接近してくるのを見た。

警備会社員らしい2名と、紺色の作業服の一名。

「こんにちは。組合員証と、接岸許可証をおねがいします」

作業服の小柄のおっさんが、とってつけたような陽気さで話しかけてくる。これに対し、おいちゃんは無表情でかつ無言、ベストから、どうやらIC入りのカードめいたものを取り出して彼にかざした。

作業服おっさんの反応は面妖だった。「あっ」と小声でつぶやくと、ちょっと目を見開いてカードを見つめたまま沈黙し、そうしておいちゃんの顔をじぃっと見るわけ。そうして、後ろをふりかえる。大柄の警備会社の男らへ、目配せしてる。彼らは日光に照らされた赤黒い顔の表情を別段かえることなく、小さくうなずく。

で、よくわかんないんだが、

「失礼しました。了解しました。どうぞ」

と、言った。

失礼?

組合員証と接岸許可証のチェックに失礼もないだろう。しかしまあいいや。

岸壁を歩く。おびただしい海鳥の群れが舞いとび、そこかしこに巨大なコンクリートの塊が放置されている。俺は荷物を運ばされた。少々ふてくされて、浸食により丸石が露出する、歩きにくい事この上ない堤防をよたよたと、自分とおいちゃんの釣り道具を、島の本土へむかって運ぶ。

ふと振り返ると、おいちゃんは先ほどの三人と、停泊してるクルーザーの前で、まだ何か話し中。

。。。風もない。暑くも寒くもない。凪の内海に、なんとも奇態な、ほぼ円形をした人工島。とにかく、俺は道具を地面において、あたりを見回した。まったく、異様な場所である。木は一本もなく、高い場所というのが、小規模な盛り土コンクリート塊以外、まるでない。中央には、かつての坑道をふさぐ、巨大な円形のコンクリートの蓋。草は乏しい土にもかかわらず隆盛を謳歌。もともとは炭坑の排気口を設営した島ということは、ガッコウの社会でおそわった。

あのコンクリート蓋の下には、何キロにもわたって広大な坑道が、いまも放置されている、と思うと、どうもゾクゾクさせられる。落盤により、もう相当失われているって話しだが、今後何十年、何百年経って、その地下の空間ってのはどうなってゆくんだろう?

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