小さな鳥と 秋の花

小さな鳥が一羽
いつもの枝にとまり
気になる草花を見ていた

小さな鳥は
夏の真っ盛りの花たちの中で
なかなか花が咲かない草のことを
ずっと気にしていた

雨が降ればいいのに、と
晴れた日には思い

雨が降りすぎれば
草が雨に叩かれて弱らないか
気になって仕方が無かった

鳥は
自分が撒いたかもしれない種から
芽が出て、やがて成長して
花開く日が来ることが
とても楽しみだったので

一向に花が咲かない草のことが
とても気になっていた

真夏の強い日照りが続く日に
仲間が休憩して木陰にいる時も

小さな鳥は花が咲かない草が気になって
暑さの中も、いつもの枝で
がんばって草を応援するように
見守り続けていた

どんな花が咲くんだろう?
早く元気な花が咲いて欲しいな
このまま枯れないで欲しいな

せめて僕が土なら沢山栄養をあげられるのに
せめて僕が雨なら優しく水分をあげられるのに
僕は鳥だから
こうして見守ることしかできない

鳥は
そんな思いで草をみつめながら
夏をすごした

にぎやかな夏の花たちが
季節を謳歌するように
沢山、ひしめきあって咲き始めてるのに
まだ
その草は一向に花を咲かせてはいなかった

小さな鳥は不安になりながらも
花が咲く日を待ち続け
いつもの枝に朝から夜まで
とまって眺め続けた


やがて台風がやってきて
叩きつけるような激しい雨が降り
小さな鳥はさすがにいつもの枝にはいられずに
雨にぬれない場所に退避していた

少しのまどろみの中で
小さな鳥は夢をみた

大空をはばたきながら
可愛くて美しい花たちが咲き誇り
一面の花畑で揺れるのを見ている夢を。

目がさめると雨がやみ
鳥はまたいつもの枝に
慌てて戻ってきた

そして草を見てみると
そこに、小さな蕾をみつけた

鳥は諦めそうになっていたので
もうすぐ花が咲くのだと思うと
たまらなく嬉しくなって
草のまわりを一周くるっと飛んだりした

よく見ると
あたりに満開に咲いていた夏の花は
季節に別れを告げ花を落とし

気づけばあの、気になっていた草と
同じような草が立派な葉を沢山
増やしていることに気がつき
鳥はとても驚いた

やがて
小さな鳥の期待に答えるかのように
秋が深まるとともに
草たちは、沢山のつぼみをつけ、
次々に花を咲かせはじめた

鳥は心配していたことを
少し滑稽にも思った

僕が気にしていた草は
夏じゃなくて秋になったら咲く花だったんだ
決して
弱くて負けてしまう花なんかじゃなかったんだ
鳥は本当に嬉しく思った

次々と花が開き
つぼみが増えていく姿を見て
鳥はとても喜んだ

やがて　いつか見た夢の通りに
沢山の花たちが風にしなかやに
揺れはじめた

そして
鳥が夏の間
ずっと、他の花たちに栄養を奪われないか
心配しながら眺めていた気持ちに
答えるように
花たちは嬉しそうに　歌うように
次々と秋の間ずっと
美しい花を咲かせ続けた

小さな鳥は生まれて始めて
とても幸せな気持ちになった気がした
そして
お気に入りの枝から
花たちを見て過ごすことが毎日楽しくて
仕方が無かった

晴れた日には一緒に雲を眺め
風が吹くと花とともに唄って過ごした

例年より猛暑が厳しかった夏が過ぎた頃
小さな鳥は少し具合が悪くなった

他の鳥より一回りも小柄な小さな鳥は
体力も強くなかった

日照りの日も木陰に入らず
草花を見続けていたので
なお更体力も落ちていた

秋のある日
小さな鳥はとても元気がなくなり
ぐったりしていた

それでもお気に入りの枝から
満開に咲いた美しい花を見ていると
幸せな気持ちになったので
頑張っていつもの枝に留まり続けていた

満開の美しい花たちを眺め続けて。

夕暮れ
やがて
そのまま目を閉じると
小さな鳥は
静かにふわりと
一面の花たちの中に舞い落ち
そしてもう
二度と息を吹き返すことはなかった

鳥を包み込むように
満開の花たちが
小さな鳥を囲むように
優しく風に揺れながら鳥の体を
撫でていく

ありがとう　見守ってくれて
ありがとう　ずっと心配してくれて

花たちは鳥を包みこむように
いつまでも
皆で風に揺れながら小鳥を優しく
撫で続けた

小さな鳥は花たちに囲まれ
優しい歌に包まれ
空の遠くへと旅立っていった

花たちはどの花たちよりも小さかった
自分の成長をいつも見守り続けていてくれた
小さな鳥のことを決して
忘れず
秋の間　精一杯
咲き続けた

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☆今日の一曲
鳥の詩　/杉田かおる
https://www.youtube.com/watch?v=HVj84msuvOI

鳥の詩 /カバー　河合奈保子
https://www.youtube.com/watch?v=0jbCPSqmeSM