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嫉妬深い同性愛者

2008年05月01日 09:30

(続き)
 あ、彩美ちゃん!

 「あっ、今晩は。え、えっと・・・」

 毎朝のように顔を合わせているが、自己紹介する機会もなく、百何人といる平社員の中、当然俺の名も知らないオナペットの彩美ちゃん。

 「あぁ、犬崎です。営業二課の。どうしてこんなオカマの店に?」

 「あらぁ、こんなオカマで悪かったわねっ!」 と、ママの横槍。

 「コンパだったんですけど、勝谷さんがしつこくて。二次会に行かず、みなさんとは別れてきました」

 「そうですか。俺もそのコンパに出る予定だったけど、急な仕事があって。帰る前に行き付けの店で一杯をと」

 三課の勝谷、玲子さんに続き彩美ちゃんにも振られたのか。ウッシッシと俄然気分が良くなってきた。その彩美ちゃんと急接近!
 隣でいいですかと、カウンター席に着き、彼女は俺が聞いたこともないカクテルを注文した。
 
 酒はほどほどいける口で、普段の社交的な雰囲気とは逆に一人で飲み歩くことが好きだという。

 この新宿ゴールデン街は一度来てみたかったそうな。
 でも、どの店に入ったらいいのか分からず迷っているとき、野良猫が足元に擦り寄ってきて歩いて行くので、後をついて行ったら、ここの看板に目が止まったのだという。

 「オカマさんって話したことないから、どんな感じかなって」

 「こんな感じです。汚いでしょう、店と一緒で」

 「お黙り、ワン公!その猫、野良じゃなくて、明美姉さんのマーブルちゃんね。アメリカンショートヘアでしょう。お客さん一人案内し損なったわね」

 「えっ、すごーいっ!客引きのニャンコちゃんですか。犬崎さんも見習わないとね」

 酒でますます陽気になったのか、彩美ちゃん、なかりキツイ突っ込みだ。

 「ひどいな、彩美さん~。俺は猫以下ですかぁ。犬が猫を見習ってどうすんのー」

 「きゃはっ、面白いィ、犬崎さんって!」

 「ワンちゃんでいいですよ、俺のこと」

 「あらっ!さっきはそう呼ぶなって怒ってたのに」 と、またまたママの横槍。

 男性社員断トツの人気を誇る受付嬢、その分他部署の女子のひがみや当て付けが激しく、何度も辛い目に会ってるとか。先輩の玲子さんにもかなり気を使っている。

 「秘書課キャサリンさん、怖いんです。食堂でご飯食べていたら、ジッと私のこと睨んでいたり。庶務の畑中さんには、給湯室でちょっとお茶を飲んでいたら、座ってるだけなのに喉乾くんだ、なんて嫌味を言われたり」

 あぁ、そうだろう、やはりそうなのか。若くこれほど可愛い彩美ちゃんのこと、他の女連中から嫉妬の波状攻撃を受けていたのだ。沈着冷静、感情を表に出さない社内CIAのキャサリン女史にまで。

 「それに、尊敬している玲子さん・・・」

 えッ?玲子さんまでーッ!あの優しいマドンナの玲子さんが、そんなぁ。

 「玲子さんが、私の、私の身体によく触ってくるんです。そのルージュとても素敵ね、って唇に触れてきたり、そのスーツお似合い、って腰に触ってきたり」

 なっ!な、なんだって、それって・・・、

 「気を付けることね、その女には。レズの女ほど嫉妬深い人種はいないんだから」

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