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ほんわかな話…生け花タクシー
2012年04月05日 20:32
10時のちょっといい話より
おそらくは都内でただ一台だと思うんですが、タクシーの車内に生け花を乗せて走っている車があります。
これを運転しているのは鈴木八洲伸(やすし)さん68歳。
鈴木さんが個人タクシーを開業したのは昭和48年のことでした。
「自分の車に乗ってくださるお客さんに何かサービスをしたい」
思案した末にひらめいたのが[生け花]でした。
運転席と助手席の間の空間に水盤と剣山を固定して花を生ければ、後ろの座席からお客様に楽しんで貰えるはず…。
そして、水盤の水を一滴もこぼさず花を乱さないで走れたとしたら、それは自分の運転の確かさと安全性の証明にもなるわけです。
間もなく鈴木さんは気づきます。
花には人の心を開きその口を開かせる力があるということです。
生け花を見て話しかけてくるお客さんが増えました。
ネオン瞬く新宿・歌舞伎町から乗り込んで来たそのお客は、巻き舌で言いました。
「烏山までやってくれや」
バックミラーをのぞくと、年の頃は30代の半ば。
あきらかに売り出し中のバリバリの暴力団組員といった感じでした。
その日、生けていたネコヤナギと菜の花に目をとめて、男は言いました。
「ガキの頃、魚を取りに行った田舎の川によくこれが咲いてたなぁ。俺は今じゃ世間の鼻つまみもんだけどよ、花は昔と同じだ。いいよなぁ…」
この言葉を聞いて、鈴木さんは思わず言ってしまいました。
「これからはそのお仕事で飯を食っていくのも大変な時代でしょう?」
男は吐き捨てるように言いました。
「大変でも何でも、この世界は簡単には抜けられねえんだよ」
鈴木さんは尚も続けました。
「抜けるも抜けないも、 それはあんたの気持ち一つじゃないですか?」
聞けば、東北の田舎の年老いたお母さんは入院中とのこと。
「お母さんの見舞いに一度帰ってみたらどうです?」
「田舎はさ、人の目がうるさいんだ。カタギじゃねえと、帰りずらいんだよ」
ちょっと淋しそうな男の言葉に鈴木さんは言いました。
「今ね、バックミラーにあなたの笑顔が浮かびましたよ。土産なんか一つもいらない。病気のお母さんにその笑顔だけを見せに帰っておあげなさいよ」
車が烏山に着きました。
料金を受け取り、お釣りを渡そうとすると、どうしたのか?
男が下を向いたまま顔を上げようとしません。
見ればその目からは、大粒の涙がポロポロとこぼれていました。
「これからもな、花を宜しく頼むよ…」
そう言い残して車を降り、闇へ消えてゆく男の後ろ姿は元通り両方の肩をゆすりながら外股で歩く怖いお兄さんに戻っていました。
鈴木さんは、今も烏山を通るたびに思うそうです。
(彼は田舎へ帰ってくれたかなぁ…)
生け花タクシーが走る道にはいくつもの忘れられない顔があります。
お客様とドライバーの一期一会から物語が生まれる。
「花が持ってる不思議な力のお陰です」と鈴木さんは語ります。
このデジログへのコメント
はじめまして。
鈴木さん、偉い人ですね。
こんなにいい話をログで読んだのは初めてです。
ありがとう!
さあさん:自分の趣味が読書とかいい話集めることだからかな~
koujiさん:こんばんはコメント有難うございます鈴木さん素敵ですよね♪日本のMKタクシーとまた少し違う素敵サービスです
生花ならではの、生きた優しさが、自由業の方の心を、ゆり動かしたのですね
管理貞操帯さん:そうですね是非続けてもらいたいですね可能なら同じことできるtaxi増えれば
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