- 名前
- onchi
- 性別
- ♂
- 年齢
- 36歳
- 住所
- 静岡
- 自己紹介
- ご訪問ありがとうございます!chiと申します。男子として生を受け、趣味はゲームと料...
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Exec_D=RIVE.first/act.
2010年06月21日 00:06
四つ目のライトが夜道を照らし、地面に貼り付いたような視線はそれを追い、少しでも気を抜けば「置いて」いかれそうな体はただひたすらに感じる。
夜道であるが故に狭まる世界。
鋼鉄の心臓の吼える音。
ハンドルに伝わる振動。
車からの声
もっと。
もっとだ。
―クラッチを繋げギアを変えろアクセルを踏み込めハンドルを切れ息つかせる間もなくそれが当たり前のように全てを集中しろただ一つの機械になるように自分をし向けろ何も考えず感じずあくまで走れただ走れスピードが低いまだ走れるアクセルが足りない認識が足りない理性を捨てる度合いが足りないただ走れ走れ走れ走れ走れ走れ
認識はそこに置いてきた。
今は加速する世界しか見えない。隣に誰も乗ってなんかいない。何もいない。俺もいない。車もない。
ない?世界は、どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?どこ?
混乱、錯乱、恐慌、アドレナリンの過剰分泌による緊張、興奮、興奮、興奮、興奮、興奮、興奮、興奮・・・・・・・・
「馬鹿、しっかり前を見ろ」
凛と厳しさを含んだ声がする。
気がつけば汗が止まらなかった。
・・・クラッチを踏みこんだ左足は筋肉が痺れ
・・・右足は震えて、エンジンは無意味な唸りを繰り返す。
・・・必要以上、呼吸をするのも忘れていたような気がする。
「・・・今日はやめだ。せっかく買った上物のラム酒がぬるくなっちまう前に帰ろう。運転代われ、早く帰らんとバレーが終わっちまう。流石にイタリアには勝っただろう。圧倒的だったからな。」
親父の、声。隣からした声は多分彼、間違いない。寒い。汗が体を冷やしたんだ。だから震えが止まらない。止まらないし、涙も出る。
「さっさとベルトを外せ、帰ったらシャワー直行な、汗だくので顔をぐしゃぐしゃにした野郎をずっと見続ける趣味はないんだからな。」
結局、ベルトを外してドアを開くまで、三分はかかった。
「運転に恐怖心は必要だ。」
・・・風呂から上がって、目当ての番組も終わりニュースを流し始めた時、親父はぼそりと呟くように始めた。
「クルマは走る凶器だからな、1トンを超す鉄の塊が突っ込んでくるんだ。物理を勉強してない奴でもわかる理屈だ。間違いなく大事故になる。それに一口に事故といってもお前が起こすだけじゃない。巻き込まれる事だってあるだろう。」
ライターの火が着かない、といつも通りの悪態を交えながら彼は告げ、どこからともなくマッチ箱を取り出すあたり徹底している。どこから出したんだ。
「だから、臆病なくらいが丁度いいんだよ。誰にでも必ず窮地は来る。平等に、だ。そんな時に気を抜いてるといい感じに足をすくわれるんだよ。怖がる事は良い。むしろ怖がれ。」
だがな、そう付け加える声は静かに。
「怖がる『相手』を間違えてるんだよ。お前は。」
紫煙は夜空に映える。久しぶりに見えた月の光にかかる雲のようだ。綺麗と感じた。
だから放られたモノに気がつかなかった。頭に当たって痛い。掌に置く。
「お前、どうして『コイツ』にビビってやがる。」
鍵だった。免許をとって、バイトをして、ようやく手に入れた証。これがあれば走れる。これがあれば、夢の一つが叶う。俺の大事な・・・大事なモノ。
「おっかなびっくりだ。肩を緊張させながらハンドルを握り、爆弾扱うみたいにシフトレバーを握り、足に至っては思い切りがない。そろそろと「お上品」に踏む。お前はお嬢様か?」
笑えるぜ。と酎ハイをあおる。おいさっきはラム酒って言ってたじゃねーか。酎ハイになるとランクが一気に下がる気がしてならない。
「それに、こればっかりはアレなんだが・・・ドライブは理屈じゃねーんだよ。お前はマラソンや運動会で足にどれくらいの荷重がかかるか・・・とか、何だ。はんせー力について考えた事はあるか?」
反省・・・?ああ、慣性力か。いいや・・・ないけど。
「同じだ。イチイチ考えてると動作が遅れる。頭で考える前に動ける自分を作れ。」
続けて曰く
「身体の延長線上だ。タイヤは四肢。エンジンは心臓。思った方向へ・・・完璧にトレースできたらレーサーになれって感じだが・・・意識は出来るだろ。おっかなびっくり接してたらそんなのは無理だ。」
最後は親父はこう言った。
「レッスン1:『クルマとお友達になれ』だ。」
・・・とりあえずその日はクルマの中で寝てみた。身体が痛かった。
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