- 名前
- onchi
- 性別
- ♂
- 年齢
- 36歳
- 住所
- 静岡
- 自己紹介
- ご訪問ありがとうございます!chiと申します。男子として生を受け、趣味はゲームと料...
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2010年06月18日 19:03
「オー、ミスターダメネ、just FUN!!eh?」
―だ、だってだってボードが今波に乗ってると考えれば波速と動粘性係数とレイノルズ数・・・は測定出来ないから、重心が、前?後ろ?ああいや右!やっぱり左―――――――!
土台無理な話なのだ。トーシロが理屈を考えつつ無駄口を叩き、波に乗るという行動そのものが、不可能、前代未聞、荒唐無稽、抱腹絶倒、こんなもので「サーファー」など、無理の一言。当時の自分には流派東方不敗をマスタリーする事よりも、なお難しく思えた。
その弱気な姿勢を体現したようなへっぴり腰はお世辞にも格好良いと言えない、もしそれを良しとすれば世界の「格好いいモノ」にパープルヘイズをお見舞いされるだろう。あああ調子に乗るんじゃなかった俺なぞ所詮はインドアゲーマーこそ相応しくただ大人しく家に帰ってベトコンになる努力を続けるべきなのだばかばか俺のばかゴボゴボゴボ・・・・
「・・・い・・・で・・・がる・・・」
波とは偉大だ。たかだか質量70kgの身体など簡単にさらってしまう。足首のパワーコードの感触はその波の強さを示したようだ。ぐいぐいと引っ張る。おいやめろ痛いだろ。足が抜けるぞ、ああ、でもこれだけ波が強いなら浮上は不可能か、ああ何と短い人生であったのか、心残りといえば・・・
「おい、しっかりし・・れ、起・・馬鹿、水深何・・トル・・思ってるんだ。」
彼女もいなかったしなあ、マックでシナモンメルツも食べたかった。年末商戦にかけてゲームも発売されるんだろうなあ、そういえば銀次のガソリン入れたっけ・・・ハイオクじゃないと機嫌が悪くなるから注意がいるぜ・・・
「おい根性なし、タマついてるのか?そんなんだから役立たずとか用なしとかタマナシだなんていわれるんだぞ。」
あーあー全然聞こえねー。余談だが水の中では音は空気中のそれの何倍もの速さで伝わるんだが方向はわからないんだぜ?だからダイビングの途中で船が通るとスクリューの音が反響してだね。こう、ぐわぁぁぁんって・・・
「おい、足ついてんぞ?」
―・・・おう。
時分は8月の中頃である。太陽は照りつけ、日本独特の汗が噴き出す暑さはない。カラリ、そんな擬音がぴったりな気候であった。
その場所はバリ、曰く、マリンスポーツの聖地である。
発端は一枚の写真だった。
―カッケーな、これ。
「だろ?これでも全盛期ってやつだ。見ろ腰の角度、この重心こそがサーファーっていうか?」
―・・・俺も、出来るかな?
「さあな、難しいぞー・・・?気合いと根性と才能と格好良さがいる。お前には大分欠落しているものばかりだが・・・」
―気合い
「あ?」
― あとコンジョー、イケる。俺は才能もないしブサメンだけど、気合いで補う。問題なく、間違いなく。
正直に言えば、ただの虚勢であったのだ。「彼」がすることは、やってみたい。何故ならば、世界で一、二番を争うほど、彼は俺にとって「クール」であったらしい。だから、ぶっきらぼうな態度になった事は、仕方がないことなのかもしれない。真似をしたいと願うこと、それはある意味で敗北を意味するからだ。しかし、そんな態度が、顔付きが気に入ったからか、返ってきたのは不適な笑みと、その言葉だった。
「じゃあ、やってみるか。」
「ヘイミスター、最初ノテイクオフハ、イワバへッピリ腰ネ、如何ナル強固ナ城壁モ足場ガ崩レレバダメダメダッテ劉備モイッテマシタ。」
―あ、三国志好きなんすか。勉強家ですねえ。
回想終了、セピアでモノローグ調な語りは儚く、説明と共に俺は現実に引き戻された。先程波にさらわれて現実逃避をしているうち、どうやら岸に戻していただけたらしい、インストラクターに感謝である。
「chiサンハドウシテモ理屈でスィンキングデスネ!?ダメダーメデスネー。Just Fun!波ヲ捕マエルンデスヨー!好キナgirlfriendのAssヲ追ッカケ回スンデスネー!」
―ケツ追っかけてブン殴られてこの結果なんスけど・・・
説明をかいつまんで要約するならば、
「ビビるな、ケツの穴を締めろ。気合いと根性で波を御すれ。」
である。言うは易いとはよくいったものだ。あー、だから簡単に考えるんだ。波の速度をvとして・・・
「馬ァァァ鹿ァァァァ」
あ、聞き覚えのある声がドップラー効果で後ろに・・・波に乗りながら叫ぶとは器用な・・・
「楽しむ・・・だろ?波に遊んでもらうんだよ。お前らしく、楽しくやれ。理屈っぽくても、お前だ。パドリングを、テイクオフを、ただ楽しめ。それが・・・」
波乗りだ。台詞そのものは間違いなく決まっていたと考えるべきだろう。ただし波打ち際からこちらまで走る事で息も絶え絶えになっているあたり、惜しいという感想以外、漏らしようがないが。
―長いセリフなら岸に俺行くのに
「あ?」
―何でもないッス。
俺には「目標とする人物」が多数いる。それは仮面なライダーな一号だったりBLACKな人だったりするのだが、中でも「身近な目標」として「彼」がいた。若い頃はサーフィンマスター(自称)で、売れっ子DJ(自称)で、バレンタインにはトラックの荷台にチョコレートが満載、かのお菓子会社に多大な貢献をした(自称)・・・と、うたっている。もし、もしそれが事実なら・・・
「Heyミスター!ソロソロ海ハHighTideネ!次ノTakeoffがラストタイムヨ!Bagusナ波サバキヲ期待シチャイマスヨ!暴レン坊ショーグン!」
― もし日本にいらっしゃったら色々ご案内しますからね。
波は大きくない。きっと彼なら簡単にねじ伏せ、こう言うだろう。
「つまんねー波だ。こんなもんノースショアの波に比べりゃ(以下略)」
ただし、俺にすれば、これほどの城壁はない。波の速度の差から、波端を起点に徐々に崩れる白波は、うねる龍を連想させた。その後ろには幾分大人しい波が控えている。ここはドルフィン・スルーを用いてやり過ごすべき。そう思い、ボードを沈めようとした時、余計な一言が蘇った。
「つまらねー波だ。」
畜生、ただの意地だ。パドリングをしようとする腕は小刻みに震えている。視線が下に向けられる。それに伴い、サーフボードは沈む。このままでは転覆の未来が見えたも当然。だけど、今、この波を・・・逃しては、いけない。
故に、吼えた。大きな虚勢に基づいた小さな行動である。ただしそれは、ただ、「立ち上がる」だけ。そんな「波乗り」なら当然の、運動神経が皆無と呼ばれた俺の、前代未聞の呼び水となった。
「Yeeeeeeaaaaahhhh!!! ソレデスヨミスター!!Bagus!:][/::]'`{***#++,(現地語のため解読不能)」
インストラクターの歓声は後方へと流れ去る。ボードから立ち上がるという動作そのもので不安定になったボードが暴れ始め、脚に不快な振動を伝えた。曰く『早くどうにかしろ』と。しかし、脚は動かない。
立ち上がった。その認識が意識を支配した為だ。転覆、後方への墜落、そんな未来を想像することは易しい。しかし身体はびくともしない。腰を落とし、スタンスを肩幅に、講習で聴いた「理屈」が脳裏を巡る。その姿を作り出せ、曖昧な姿を、形に・・・!
思考と行動が伴わない。それを不快感と知覚出来るときには遅いのだ。サーフボードの頭があがる身体が水面に傾く、白い龍が自分を飲もうと口を開く。ああ、もうおしまいなのだ。ここまで、入り口まで、俺は、あいつの真似すらできない・・・!
鋭い音が響く。
それは、雪上を滑る板の音に似て
それは、水を裂く刃の音に似て
その「姿」を真似る事なら、易い。
サーファーのイメージは、難しい。ただし、目の前に「手本」が現れたなら・・・
講習で習わなかった腰の落としかた。
講習で習わなかった手の構え。
それらを無茶とは言うまい。それは「彼」が長年かけて見つけだした「彼の構え」である。そして自分は、彼に一番近い存在である。
―ねだるな、勝ち取れ・・・!
呟いた言葉は意味を成さない。しかしこの場において、その言葉と共に、彼は波に乗った。くしくも「彼」のライディングと等しく。
夕日が波打ち際に反射する事で、宝石箱のように輝く。サーファー・スクールは終わり、ホテルへのバスを待つだけとなった。
― つまんねー波だったんだろ?
半ば自嘲気味に放つ言葉。素直に「お陰で助かったよ」と言えたらどんなに良いか。文字通り「自嘲」なのだ。女性ならばこれはツンデレなのか?そんな喩えに、男だから可愛さの欠片もない。頭の中では解答を出していた。
「・・・つまらなかったが、お前のあの慌てようが爆笑モンだったからな。」
そっぽを向く様は自分と変わらないじゃないか、口が裂けても言えないが、これもまた微笑ましいだろう。
―素直になれよ、アレだろ?心配になったんだろ?あ、一緒に波乗りがしたかったとか?
「調子に乗るな、馬鹿」
額を小突くその表情は、笑顔だった・・・ような気がする。
いつか、憧れる姿がある。最高に格好いい「親父」と肩を並べられるような、そんな男になれたら、それは息子の本懐ではなかろうか。
このデジログへのコメント
(*^^*)おもしろかった(笑 でもチャレンジするところは
ホント すごいね。私もやってみたいな
> misasaekiさん
おお、早速のレスポンスをありがとうございます!俺、こーんな感じの日記になるので、是非是非、読んで頂いて感想なんかもらえたら感涙しますんで・・・笑
人生全て之勉強です!
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