- 名前
- onchi
- 性別
- ♂
- 年齢
- 36歳
- 住所
- 静岡
- 自己紹介
- ご訪問ありがとうございます!chiと申します。男子として生を受け、趣味はゲームと料...
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2010年06月22日 00:05
その日は雨が降っていた。
一人暮らしの住まいにおいて「雨」とはその日の行動意欲を著しく奪うといっても過言ではない。昨晩「明日はスーパーに買い出しだっ」と意気込んでいた自分はひっそりとなりを潜め、意気込みは「どうせ備蓄はあるんだ」とどこか言い訳じみた思考へとシフトし始めていた。
正に絵に描いた「自堕落」。そんな自分にほんの少しのスパイスが振り掛けられたのは天恵か否か。
電話の音。
一度は無視した。
二度、三度で鬱陶しくなる。
四度目で手を伸ばし、ちょうど五回目のアンサリングが終わろうとする頃、通話のスイッチに指がかかろうとしたとき、これが何処か見覚えのある場面である事に気がついた。
「・・・はい、俺です・・・」
電話を取る時の第一声、相手の言葉を聞き取る前に、少しだけ自分の記憶に潜り込む事にしよう。
―Rrrrr
今は何時だろうか、ガラにもなく前後不覚のまま眠り込んだのは致命的なミスと言わざるを得ない。横になって音楽でも楽しもうとしたのが要因だろう。
―Rrrrr
携帯音楽プレーヤーの電池は残量不足を示し、イヤホンの長時間の着用で耳には独特の痛みがある。窓を叩く雨が止み、夕陽がどっぷりと沈んでいるところを見るとどうやら寝ていた時間は三十分や一時間のレベルではあるまい。
―Rrrrr
困った。予定ではそろそろ電子ジャーの中の米は炊き上がる時間というに、スイッチを入れていない釜の中では米粒が少し早い納涼と洒落こんでいる。新たな献立を考えなければ。
―Rrrrr
・・・ふと思う。
―Rrrrr
・・・うるさい。
「・・・はい、俺です・・・ただいま寝起きで俺は正常な反応ができません。御用の方はあくびの後にメッセージを・・・」
「こんな時間に眠りこくとは大したタマじゃねーか。お前がシェスタが必要な生活リズムだったとは驚きだ。日本よりスペインが似合っているんじゃないか?何なら今からでも気化したらどうだ。」
「・・・起きざまに皮肉とは洒落がきいてるな。何の用だ親父。あー、そうか。検討がついた。生憎だが今週のゴルフのコンペの誘いは受けないぞ。関東地方は雨らしいじゃないか。レインコンディションで優位性がないのはゴルフでもクルマでも同じだと思うんだがね。俺はクルマに関してもゴルフに関しても「ど」アマチュアだ。謹んで遠慮を・・・」
「そいつは残念だな・・・ではお前の言い分はこうだな。
『来週末は俺はテコ使っても帰らない。何故なら「レインコンディション」は嫌いだから。そっちの家でチェリーコークでもちびちびやりながらゲームに精を出すぞ』と。
・・・じゃあ陸送にキャンセルの電話入れなきゃな。」
「そうそう・・・相変わらず話がわかるじゃないか。是非そうして・・・何?陸送?」
「あのディーラーの巨漢は見た目と同じくらいサービスには豊満らしくてな。家から店に近いしその必要もないっていうのに無料で家まで「転がして」くれるんだとさ。しかしまあお前が帰らないなら無駄だからな・・・「レインコンディション」じゃない時にでも頼んでおくか。残念だな。これから梅雨だというに雨が無い日を探すとは・・・」
「ち、ちょっと待ってて・・・何を言っているか見当がつかないんだけれど・・・」
「そりゃぁお前・・・決まってるだろ?」
「お前さんの『相棒』とご対面さ。」
週末、俺は「相棒」のキーを握る事になった。あれはそう、梅雨独特のしとしと雨の中、彼の第一声から始まったのだ。思えば「自堕落」とは、卵の殻のように簡単な一言で割れ、新しい「何か」は思いもよらずやってくるのではないだろうか。
「・・・ただいま俺は寝起きで正常な反応が・・・」
「何だよお前、また寝てるのか?やっぱりお前はスペインに・・・いや、いっそ犬になったらどうだ?近所のクレソンなんてお前以上にぐーたらしてるぞ?」
聞き覚えのある声に、皮肉。
さて、今日は何が始まるのかな。
相変わらずの皮肉を受けつつ、俺は背中を伸ばした。
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