Tales of Planet Tecle　１４

第一章　アファレスとウヴァルス

第五話　ヌハ　２


イツキスとエノアがヌハと共にゴセの滝へと出発したのは、早朝のことだった

ヌハは前日の夜のうちに森の中で便利なものを揃えておいてくれた

ゴセの滝を超えるとリルウヴァルトの森に続く
そこでは迷い込んだものすべての方向感覚をなくし、何度も同じ道を通り、自分が今どこにいるのかさえもわからなくなると言うまさに別名の通り迷いの森そのものだ
そこで、自分たちが通った道に目印をつけるための小さなフラッグ･･･これは分かれ道でどちらに行ったかを示すこともできてとても便利だ･･･や、森の中での位置を知るために木に登るときに使うキシカの糸で作ったロープなど、これからの旅に必要なものばかりをヌハは選んで用意してくれていたのだ

前日と同様にヌハは饒舌で、楽しい話を二人に聞かせながら約７日かかるゴセの滝までの道のりを歩き続けた

そんな話の中でも興味深かったのは、霧の谷はアファレスの聖地と呼ばれてはいるものの、ほとんどのアファレスが一度か二度しか行ったことがないという話だった
初めて行ったときには、アファレスの記憶力を持ってすれば迷いの森の迷路もあっさりと抜けられるのだけれども、次に行ってみようとすると、何故かはわからないけれども森を抜けることができないのだそうだ
ヌハ自身もこの６００年の間に３度しか行ったことはないと言うことだった

そして、今回迷いの森を一緒に行けないのはとても残念だと言っていた
なぜなら、エノアがこの森を通るのは初めてだからあっさり抜けられるはずなので、一緒に行けば必ず霧の谷に行けるはずだと思っていたらしい
でも、今回は他のアファレスから頼まれたことがあって、どうしても一緒に行けないのだと言うことだった

イツキスはそんな話を楽しそうに聞いていたけれども、エノアは少し違和感を感じながら聞いていた


そろそろゴセの滝が近づいてきたと言う頃のこと
エノアがいきなり立ち止まって

「何かいる！」

と森の木を見上げながら辺りを警戒し始めた

イツキスとヌハは

「どうした？」

と怪訝そうだ

それでもエノアは

「昨日から気づいていたのですが、何者かが私たちを見ながらずっと付いてきています
何なのかはわからないけれども、明らかに知能を持った生き物です

それも、相当な年月を生きてきたアファレスほどの高い知能を持っている」

と言い、

「消えた･･･気配が消えました

私たちから少し離れたのでしょう」

と、ひとりでつぶやいていた

ヌハが

「何か木の上で生活する動物じゃないのか？」

と訊くと、

「いいえ、明らかに私たちに対する悪意を感じました
どんな動物もアファレスに悪意を抱くとは思えません」

とエノアはきっぱりと言った


テクル星にも肉食の動物はいる
ただ、食べる相手を自ら殺していたのでは、この星のルールで自分自身の命を削ることになる
だから、すでに死んでいるものの肉を食べて生きているのだ
リリルの本の中には、そうした肉食の動物の中には進化の過程において、他の動物を角に寄生させ、その角を使って相手を殺してその肉を食べるものもいたらしいのだが、現在その動物を見たものはいない
しかし、この深い森の中に絶対にいないとは誰にも言えないのだった


しきりに上や周りを警戒しながら歩くエノアと共に３人がゴセの滝にたどり着いたのはヌハの街を出て７日目、旅をはじめて２９日目の夕方のことだった

ヌハは別れ際に

「気を付けて行くんだぞ
エノアが一緒とはいえ、ウヴァルスがこの森を抜けられたことは今までに一度もない

まあ、お前らなら大丈夫だろうがな

わしは久しぶりに夜の森を歩いてみるよ」

と言い、街へと戻って行った


ヌハと別れたイツキスはエノアに向かって

「いったいどうしたって言うんだい？」

と訊くと、エノアは

「この先はかなり厳しい旅になりそうだから十分に気をつけてね

今日はゆっくり休みましょう」

と答えるだけだった


そして、二人が眠りについた頃、


「そこにいるのはピモモか？」

「はい･･･」

「バカヤロウ！
十歳とはいえなめてかかるなと言っただろう！！」

「それは･･･あんたにだって気付かれない自信はあったんだ」

「ああ、わしは気付かんかったよ
でもあの子は気づいた

良いか、エノアは尋常な相手じゃない
軽く見てはいかん！」

「はい･･･」


つづく･･･

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