夢・トランス・そして自我

心理学ってのは一つに
まとまった体系じゃなくて
色々な学派がある。

人のこころは目に見えないから
人が人のこころを考えようとした時、
その数だけ学派があるといっても
いいくらい様々だ。

そんな中でユングという人が
考えた心理学の理論はとても
興味深くて、今でも実践の
現場で活躍する臨床心理士には
この学派の人が多い。

いわゆる夢分析というやつで、
そこら辺に売っている、夢分析の
手軽な本とは内容が全く違うけれど、
ともかく夢をみるという状態は
日常の生活を送っていて、
社会的規範に規制されて、
本当の自分の姿をさらけだせない
人間が、夢の中ではその規制から
抜け出して本来の自分の願望を
あらゆる形に変えて顔を覗かせる。

夢はストレートに願望を表す
ものではなくて、遠まわしに
解釈する必要がある。

そこらへんは二年、三年勉強
したくらいじゃ事足りない。
十年やっても一人前にはなれないくらい
とても深くて繊細なものだ。

それでも自分の夢について
ちょっとだけ考えてみる事は
普段押さえつけている自分の
本当の欲求や願望をしるのに
役に立つ事がある。

この頃は高い建物の夢や、
高い建物の群が水に沈む夢を
よくみたりする。

今の社会に対する反抗というか、
警笛というか・・・

ともかく高い建物や都市が
水に沈んでしまう夢をよくみる。

けれど今日は何かの仏閣のような
高い建物に登っていって、
そのほとんど頂上に近い所に
鏡の間がある夢を見た。

そこにはいくつもの隠し扉や
隠し引き出しがあって、
色々と探していると、
黄金色の金属で出来た、
金よりもずっと堅い素材の
ようなもので、極めて細かい
細工を施されたいくつものカギを
見つけた。

そのカギを見て、直感的に
これらを組み合わせて
初めて「大切な何か」への
カギが完成するのだと思った。

その大切な何かは、日頃
自分が隠している無意識の
願望に違いないとは思う
のだけれど、残念な事に
そこで目が覚めてしまった。

さて、この話を読んで
どのような感想を持っただろうか？

高いビルが水に沈む。
軒並みなぎ倒される。
人々は街に沈んだ街を
まだ沈んでいない高速道路の
高架橋の上から、騒ぎ立てながら
何かを話している。

そうかと思えば、水に沈んだ
街の中を船で自由に行きかっている。

中には潜水艦にのって、何故か
戦いをしている人々もいる。

そんな中、大自然に囲まれた
秘境のようなところに建った
仏閣の中で、若い女の子と
一緒にその仏閣を登ってゆく。

そしてたどり着いた部屋は
とても狭くて普通の人間の
半分のサイズで作られていて、
とても休む事が出来ない。

ふと隣に突如として部屋が
現れて、その部屋に入ってみると
鏡の間になっていて、その鏡は
全て扉になっている。

どれをあけても中身は空っぽだ。

天井近くにある古びた引き出しを
あけてみると、銅で出来たような
青サビでボロボロになったカギが
入っている。それを見て、それはもう
必要ないものだと投げ捨てて、
次の引き出しを空けてみたら、
黄金色の不思議な堅い素材で
出来た、非常に細かい美術品の
ようなものが何個も並んでいる。

どうやっても組み合わせようの
ない形、筒の形をしたものや、
カギの形をしたものや、
ただの装飾品のようなものが
並んでいる。

これも直感的に、その中の
いくつかを組み合わせる事で
次に開くべき扉へのカギと
なると思った。

しかし暗くてよく見えない。
見えるように火をたいて
いた部分に突然天から
日が差して、声が聞こえた。

何といっているのかわからない。
けれどもそれを組み立てるのだと
いう意思だけが伝わってくる。

そうして上を見上げると、
何か仏像のようなものの
足元だけが見えている。

そこで夢は終ってしまった。

これを解釈しようとして、
一つ一つの「もの」に
言葉を与えて「定義」してしまうと
それは途端に「夢」の意味を
失ってしまう。

それはある部分では人間全体に
共通する潜在意識があるにせよ、
個人の中にある潜在意識が
作られたバックボーンを
知らなければ、外から勝手に
当てはめた「型」に無理矢理
押し込めることになってしまって、
個人が見えなくなってしまうからだ。

そこで大切なのは（ユングが考えた
人間全体に共通する）普遍的無意識
の部分と、個人的な無意識の部分とを
しっかりと分けて、何故個人が
普遍的無意識の部分の夢をみたのか、
何故個人的な部分での無意識として
「そういう形」として夢に
なったのかを、個人の成長の過程と
共に丁寧に読み解いてゆくことだ。

じゃあとりあえず「水」について
「定義されている」一般的解釈は
どんなものかというと、
「水は人間の心の深層に潜る無意識の領域の象徴である。また根源的なシンボルの常として両義的性格をもち、活力を与え、豊饒をもたらす一方で、沈降や絶滅を暗示するシンボルともなる」

活力と絶滅。
どちらとも取れるようになっている。

夢の中に出てくる水は、都市を
飲み込む水だから、現在の社会に
対する絶望かんと、壊れてしまえばいい
という願望の現われだと思われる。

では、なのに何故人々は
まだ水没してない道路の上で
何かをしようとしているのか・・・

その人々はどのような人々なのか。
それでも戦いを続けている人々は
いったい何物なのか。

常に自分の周囲にいる若い女性は
いったい何なのか。

女性は秘境にある仏閣まで
一緒についてくるけれども、
人よりも小さいサイズで作られた
部屋をみて、そこで休む事が
出来ないと知るや否や、
突然態度をかえて、怒り出した。

この状況をどうするのか？と
しつこく問い詰める。

しかしそれを無視していると、
鏡の間が現れる。

水は大母神（グレートマザー）として
解釈できるし、仏閣は老賢者
（オールドワイズマン）として
解釈する事が出来る。

女性は男性の中にある女性性、
女性像（アニマ）として捉えられる。

そうすると、自分の中の女性性が
とても未熟で、途中ですねて
怒り出してしまうのは、あるいは
女性にたいする失望感かもしれないし、
失恋に対する傷がそういう形で、
わがままな女性として現れているかもしれない。

貴金属類は仮面（ペルソナ）として、
精神外界（社会）に対する自己イメージで
本音と建前の「タテマエ」の部分に当たる。

色々な建前を身につけて、それを
組み合わせる事で、ようやく自分自身
の「本音」との折り合いがつけられる。
いくつもカギのような物が並んで
いるなかで、必要なものだけを
直感的に感じ取って、これとこれを
組み合わせるんだと、夢の中で感じた。

現実社会にあわせた自分像が
出来かけているのかもしれない。

また不機嫌になった女性を無視した
部分は影（シャドウ）と定義できて、
もう一人の自分自身の嫌いな自分を
表していると考えられる。

色々と組み合わせて考える事は
出来るけれど、総合的にみて、
いわゆる「死への準備」が
整ったのではないかと・・・
そういう風に捉えられる夢だ。

現実の行過ぎた社会、お金や物質に
翻弄されて、こころを見失った社会。
それに見切りをつけてしまって、
水という大母神に飲み込ませてしまう。

そこでガヤガヤやっている人達を
尻目にして、仏閣にたどり着く。
そこは老賢者が住む場所で、自分の中の
究極の存在で、そこに進むためには
自らの中のカギを選りすぐって、
我がまま放題の未熟な女性像を
捨て去って、カギを組み立てた所で
いよいよその先にある「聖地」の
ような所へ進もうとしている。

自分はもう社会に絶望して、
恋愛にも絶望しかけていて、
死にたいと願っている部分がある。
それは意識出来る部分で、毎日の
ように感じ取っているし、
この頃は体や心が思うように
動かなくて、もしかして
寿命か（若年性の）老衰で
死期が近いんじゃないか？
とも思っている。

もしくは自ら命を絶つ
手段を考えている自分がいる。

そこに最後の最後まで
くっついてくる若い女性は、
自分の最後のわだかまり・・・
生きる事に対しての最後の欲望
としての若い女性なのか、性欲なのか、
それはわからないけれど、
それすらも、夢の中で断ち切ってしまった。

本当にそれを実行するかどうか、
本当に体がおかしくなっていて、
死期が近いのか・・・
それはまったく未知だけれど、
夢の暗示というのは案外当たっていて、
高名な人達の夢でも（例えばユング自身
であったり、明恵聖人であったり・・・）
死の間際に同じような夢を見ている。

明るい方向に捉えれば、これは
今までの自分自身から脱皮して、
新たな決意を持った自分への
生まれ変わりの時期が近付いていて、
今までとは違ったやり方で、
社会と向き合ってゆくための
準備が整ったとも取れる。

何も悪い方向へと考えるだけが
夢分析じゃない。

それに「定義」づけしてしまって、
この夢はこのような意味を持つと、
本や文献に書いてある通りに解釈
するほど、夢の分析は浅いものじゃない。

これまで生きてきた過去や記憶、
それから人類が共通に持っている
歴史や知恵なども含めて考えなければ
ならないから、早急に結論を
出す事なんて出来ない。

どうなるかは全く未知だけれども、
何かしらの変革が自分の中に
起きているのは事実だという事が
言えるだけにすぎない。