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山へ登りましょう お兄さん(4)

2009年04月19日 11:57

山へ登りましょう お兄さん(4)

常念岳(拾い物画像ですが 美しい限り)





その日の目覚めは最高 体調も万全
いつものメンバーとの登山なので 気心も知れ
調子よく 岩場を登っていった彼女
憧れの常念岳 
その名前は 前ログに既述のウエストンが命じた
「僧が常に念じているような 綺麗な三角山」という感想からであると
今回ツアーパンフレットで知り ますます恋慕が募り
本当に この日を指折り数えていた

    胸突八丁
      胸突八丁

合言葉のようにつぶやく キツイ場
皆の足取りが重くなり 息使いが 入り乱れて聞こえてくる
彼女も例外なく これまでにない疲労を覚える
ガイドブックミーティングで この箇所の辛さは
掌握していたとはいえ ジグザクに刻まれた勾配は厳しく 堪らない
でも ここを過ぎ 源流を渡れば 常念乗越
もはや 常念の頂きは 目の前に迎えてくれる
ロープ場を超え 
「ここを登ったら 休憩とります!」という声に 力を振り絞る
もうすぐ!!
と そのとき 彼女はガクっと膝をつく
自分の意思をまるで無視したかのような脱力
初めての経験だった

「Sさん?どうした?疲れちゃった?」
と 後の男性が 回り込んで彼女をみるや否や 大声を出す
「Oさん(リーダー)大変!怪我してます!!」

叫ばれて 改めて 崩れ落ちた自分の右足をみると
みるみる血が滲んできている
登山用 厚手のズボンがその調子だから かなりの出血となるだろう
冷静に というか他人事のように その血を見つめる彼女
その様とは 対照的に 全く痛みはないのが不可思議なだけだった
慌ててOさんが人を掻き分け 寄ってくる
靴を脱がせ ズボンをめくると ギャラリーから悲鳴があがった

膝下15cmくらいがパックリ裂けていたのだ
まずは狭い山道
他のパーティの迷惑にならないよう 少し下がった岩場の広いところまで
彼女はおぶられた
リーダーはテキパキと 救急セット片手に血を拭き 按配を見ながら
彼女に聞く

「何処かにぶつけましたか?いつ こうなったか判る?」

彼女はかぶりを振った

「全く 普通に登ってたんですよ~
 ロープから離れて 後に声かけて 二 三歩行ったとたん
 転ぶというか 急に・・・」

越してゆくとき 心配そうに覗き込んだ女性の一向が
「すぐそこの常念小屋に簡単な診療所あるから お手伝いしますよ」

 「こっちも大勢いるのでそれには及ばない」と 
ご好意にお礼を言い 皆の手を借りて 彼女は運ばれた
     
       何故 こんなことに。。。。

   目の前の山は 答えてくれない
   痛みはなく ただ歩けない哀しさと 遣り切れなさ
   彼女は 折角のツアー台無しにしている自分が切なくなった

大丈夫だと 白い歯で答えるリーダー
内心 どんなに焦って 困っていることだろう・・・

山小屋に急患だと 告げたとたん 管理人が騒ぐ

「あ!ついさっき 先生が下山したばかり!
 追いかければ まだ間に合うかも!」
それを聞いて 休んでいたらしい学生のような二人組が 
脱兎のごとく 小屋を出た
唖然としているうち 逆方向の一の俣へ下り始めたという
信州大学の先生を 連れ戻してくれた
地獄に仏で 彼は 整形外科医だという
 ただ 厳密にいえば 手の外科に属するようで 
足の外科学会員だったなら 本当に遭うべくしてあった事故になるが


リーダーの話しを聞きながら 彼女の足の傷をみた先生は
こともなげに こう言った

「カマイタチでしょうね 運が悪かったです。。。」

何かで斬った訳でも ぶつけた記憶がない限り 
この現象しか説明つかない
確かに 渡りきったロープ場は 強風で有名なところ
そんな風の通り道で 何かしらの超現象があっても不思議ではない
起こってしまった以上 原因探しより治療
勿論 登山の継続が無理なのは明らかなので 
彼女はリーダーと他のメンバーに 予定を大幅に狂わせた侘びを言った


 残念だよ

 ごめんね ここに置いてゆくようで 申し訳ないわ

 大したことなければいいね

 今度 また一緒に登りましょうね


そんな皆を 笑顔で見送る
座ったままの非礼を謝りつつ 手を振り 静かに 送り出した

「一応 縫合しますが 
下へ帰ったらすぐ専門医にかかってください」
消毒と 薬探しに手間取った様子の 外科医が言う

「何せ病人は多くても こんな感じの怪我人は 
 あまり出ない場所だしね。。。
 カットバンアスピリンばかり 常備してるんですよ。。。」

麻酔注射の痛みで 我に返った と 彼女は後 思い起こす
先生の横で 小屋の管理人が 彼女にある事を告げにきた

「あの~ 松本消防に連絡したんですが 
ヘリ どっちが来るか判らないんで 一応 覚悟しといてください」

ヘリ。。。
その時点でも 彼女は自分のため 山岳救助のヘリがここへ来る状況を 
掴めていなかった

「え?私 ゆっくり 下山できます!ヘリなんて要りませんよ!」
先生が 呆れたといわん顔で それを制した

「この傷で どうやって下界までつけます? シェルパーでもいれば
背負ってもらうんだけれど。。
この状態ではヘリで早く病院へ行った方がいい」

観念はしたものの 「どっちのヘリ」という言葉には 
更に恐ろしい事実があった

公共団体のヘリだったなら 基本無償での救助にあたるのだが
生憎にも そのヘリが出尽くしている 
またはパイロットが都合つかない場合は民間ヘリに要請する事態もある
その際は 一時間60万円 ここからのフライトでは100万をみないと
いけないかもしれないという話しだった
ツアー保険には入っているものの こうした保証まで確認していない

 なんて不運の連続なんだろう
 何の因果で こんなことに

  一天にわかに曇り 小屋内が薄暗くなる
 先生が丁寧に 縫ってくれている手元を 
 あてどもなく彼女の目は追っていた

 「はい!これで応急処置は終わりです
  僕は付き添えないので ここに詳細を書きますね」

先生は そう言って机に向かい 何かを書き 管理人へ手渡した
救急隊員に渡すようにと

「では お大事に。
 不運でしたが こういったスパっと切れた処は治りは悪くない筈です」


交替要員と次の小屋で待ち合わせていたという外科医は 
そう言い残して去っていった

その二時間後 先ほどの学生が外から 小屋へ入ってきた
「おやっさん 来ましたよ ヘリ
 あれって、、、あの色だとセーフでないかな?」

その言葉に 五感を集中させると 確かにハタハタと遠い音が聞こえた
それは どんどん迫ってきて 
「着きました~!」と もう一人が呼びにきてくれた

降りてきた隊員の制服をみて 管理人が微笑む

「良かった~ 県警の奴ですよ 只 ただ(^.^)」

こうして 彼女は 手馴れた隊員に 速やかに担架に移され
生まれて初めて ヘリコプターに乗る運びとなった



    「今回は無念にも 帰るけれど
    また来るからね!」




麻酔が切れて 少し痛み出した足を意識しながら
彼女松本市内の総合病院へ運ばれる
幸い 山での処置が迅速・適切であったため 更なる外科治療は行わず
感染予防の抗生物質注射を受け 彼女は夜行電車で 家へと戻った
出発時刻ギリギリだったので 口早に夫へ電話をかける
夫は 三泊の予定で出かけた妻からの
「今から帰るから!朝6時 できれば駅に迎えに来て」コールは 
意味をなさず 不安の一夜を明かすこととなった

足の傷も癒え 
例の先生へ 大学宛に礼状とささやか菓子を贈るも 当然音なし

  「偉い先生って そんなもんだよね~
   日に何人も診てるだろうし。。。」




また 山へ登る夢をみる
愉しみにしていた常念岳・蝶ガ丘ツアーは終わってしまった
息子と嫁に頼み込んででも 
やはり どうしても常念岳にゆきたい
今すぐでなくても いつの日にかでいい。。。
そんな申し出をする前に 息子夫婦は 有り得ない現実と
勝手な行動の後付をもって 彼女と夫を奈落の底に落とした
結果 彼女は翌朝 布団から起き上がれなくなって 小さな悲鳴をあげる
心因性は自分の観念を打破すれば すぐ治るのか。。。ともがいても
歩行が困難になった身体は リハビリ強要する
夫の衝撃も大きく 数日で白髪体質とはいえ真っ白の頭になっていた

  もう 普通に歩けるくらいに回復はしても たぶん山へは登れない



彼女の 長年の憧れ 征服できなかった山々
常念だけではなく 数え切れないだけの峰がある

アルペンカレンダーにみる尾根
薄明 朝焼け あかね雲に 彩り鮮やかに包まれている
静かで 雄々しい佇まい

ここ数年 幸せだった 
一時でも 山の息吹と一体になれた

娘が送ってきた大判ファイルフォルダーに カレンダー写真
一枚ずつばらして 収納する

 嗚呼 ここを開けば 山がある
 開かずとも いつも心は あそこへゆける・・・・・・





あるとき 彼女の話しをしたならば 自身も山を愛する方にこう言われた

「だったら 貴女が連れていってあげればいいじゃない?
登れなくても 麓から 好きな山を見せてあげたら?」

折角の助言だが 私は首を縦にしないだろう
 だって 彼女が それを望んでいないから




     ―何故 何故 山に登るのか
      山がそこにあるから 山がそこにあるからー




    手に入らないものは 最初から目にしたくない


 
そんな彼女遺伝子を 色濃く受け継いだ私が言うのだから
間違いない・・・・




*****最後に。。。
   昨日のログに「長いと警告。。。」と書いた件
   すみません
   言葉不足でした
   デジから 本当に警告があるのかは定かではありません
   ただ どなたかのログに何字以上だと、、、とか
   書かれていたようにも思えますが
   真意は 未確認です
   昨年12月に 食べたいモンを羅列したとき
   通りすがりさんから
   「なげ~よ」
   と苦情コメもらったのを 念頭においての記述でした
   紛らわしい表現をしましたこと お詫びいたします
   そして 本当に警告されたら 報告します ^^; *****
   





 まだま~だ続きます

 そして誰も居なくなっても 書きたいから 続けます<(_ _)>

このデジログへのコメント

  • あすなろ 2009年04月19日 12:23

    長いなんて少しも思わないよ 俺でさえいっきに読み終えた。松本から見える常念岳は本当に綺麗 俺も大好き

  • やじろべい 2009年04月19日 14:14

    長いと言うのは携帯からだとスクロール仕切れない物も有るから?全然大丈夫。私も神々の住む所に行きたい

  • 赤wine 2009年04月19日 15:09

    なるほど そういうことか(^^)


    よし!
    やりたい事を
    やれる時に するぞーっ(^_-)-☆

  • 鞍馬 由岐 2009年04月19日 20:13

    お母様の物語だったのですね。
    私も強く念じ、少ない機会を捉えてコツコツと登り続けています。

  • ヤヨイ 2009年04月19日 22:52

    > あすなろさん
    そう 今日のが最長のように思えるけれど 読んでくれて有難う
    連峰 想像を絶する名山が立ち並ぶ中
    好み、、というか好きな山は顕著に別れるそうですね
    写真 本気にしたよ♪

  • ヤヨイ 2009年04月19日 22:55

    > やじろべいさん
    成程 私は携帯でデジった事がないので 不具合が判らないんだよね
    私も ヘタレワンゲルだったくせに 昨日今日と 山。。を書いていたら 
    神の領域へ行ってみたくなりました 

  • ヤヨイ 2009年04月19日 22:57

    > 赤ワインさん
    そうだね 本当に動けなくなってからの後悔ほど 辛く 自分を責める
    ものはないような気がする
    やりたい事 ガンガンやろう!
    って ところで 差しあたってな~に?

  • ヤヨイ 2009年04月19日 22:59

    > 鞍馬 由岐さん
    はい。恥ずかしながら 昔 肥満体で鈍足だった娘で~す=^_^=
    常に念じる 常念
    何故 母がこれほどまで この岳を崇拝したのか
    自分でも知るため 登りたかったのでしょう

  • noa 2009年04月20日 19:47

    長いなんて感じませんとっても素敵なログ熟読致しました
    今できる事をとしっかりと気持ちを新たに

  • 奈津 2009年04月21日 00:28

    ハラハラドキドキしながら読み終えました。
    麓から好きな山を見るだけで満足する時はどんな心境だろう…

  • ヤヨイ 2009年04月21日 22:40

    > ピロすけさん
    いつもありがと~
    最後の一人GETだぜ~=^_^=
    本当はさ 自分のワンゲル部の話しが 書きかけのままなんよ
    そこに行き着くまで 果てしなく続けるかもしれないの(笑)

  • ヤヨイ 2009年04月21日 22:43

    > noaさん
    書きなぐり状態で失礼しました
    本当は 一言二言で秒殺できる技を どこかで修行したく
    開拓中です(笑)
    明日は来ても 決して 同じ日ではない
    当たり前を忘れず 有りたいもの

  • ヤヨイ 2009年04月21日 22:47

    > さやかさん
    せめて、、という妥協にも至らない
    そう強い思いと 情念ですね。。
    私がそっくりの意地っぱりで 見せびらかす子の自慢の一品は
    見にもいかなかった
    半端は嫌いですね~

  • ヤヨイ 2009年04月21日 22:49

    > 奈津さん
    そうだな~どんな心境の どんなときなんだろう

    満たされたとき
    もしくは 魂だけが そこへ飛んだときかしら

    「山」になりたくて赴いたのなら 下から見上げる欲求はないから

  • ーミっキー 2009年04月22日 22:42

    カマイタチでそんなに切れちゃうもんなんですね‥
    自然の力って、す・ん・ご・い・ですねぇ~(笑)

  • ヤヨイ 2009年04月22日 23:10

    > ミっキーさん
    知識として知ってはいたけれど まさか本当に遭う人がいるとは。。
    かなり鋭利な傷でしたが 痛みがあまりないのが 
    せめてもの悪戯イタチの罪滅ぼしだったのでしょうね(^_^)v

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