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拝啓、イチゴさま 後編

2023年01月22日 08:11

拝啓、イチゴさま 後編

~手紙より~続き




ある日、ふと考えた

若かった私も、50半ばになり

思えばずっと独身で過ごしてきた

まわりの友人は家庭を持ち、子どもや孫までいる

それなのに私は、たった一人の娘である君に会えすらしない

これは、もう神が私に「会うことを諦めろ」と言っているのではないか

そして、私の心は折れてしまった



どこかで君が元気でいるのならば

それで良しとしよう

私は出しゃばらず、君の邪魔をせず余生を迎えればいい

そう考えた


そんな時、私はある女性と出会って結婚

家庭を持ち、子どもが生まれた

それがソフィアとファティマだ



彼女たちは、私にとってかけがえのない存在になった

妻に向かっては言えなかったが、妻よりも大切だ

そして、誰にも言わなかったが

2人と同じく、君の事も大切に思っていた




あの日、私は珍しく仕事を休んだ

別に体調が悪かったわけじゃなく、何となくだ

妻はソフィアを連れ、出かけていき

ファティマはまだ生まれてすらいなかった


私はすることもなく、ただ部屋を掃除していた

出かけたいとも思わなかったし、眠ろうとも思わなかった

ふいに呼び鈴が鳴り、私はドアを開けた


私は目を疑った


目の前に、あの時の日美子がいた

いや、訂正する

日美子に似た、綺麗な女性がいた

そう、君だ


私はとても驚いたが、同時に心臓が高く鼓動した

君は、君の子どもと二人の友人を連れ、私の元へ訪れてくれた


私は嬉しくて、泣きたかった

しかしながら、涙して君を見られないことを恐れて

泣くことを我慢した



私は精いっぱい、平静を装った



君を目の前にして、私はとても緊張していた

あの幼かった赤ん坊が、こうして立派に成長し

ひとりのレディとして座っていることが

私にはとても嬉しかった

そして、君が連れていた子ども

君をとても慕っている様子が見て取れたことも、私はものすごく誇らしかった


それと同時に、私が君へ父親らしいことを何一つできていないことが

とても恥ずかしかった


私は君に、私の現状を伝えられる限り伝えた

子どもがいること、そのおかげで幸せであること

君の事を忘れた日は一瞬たりとて無いこと


だが、君は私に笑顔を向けてくれることはなかった


もちろん、そのことを恨んでいるわけではない

恨む権利すら私には無いのだから

君の行いは、当然のものだ


そして、私は君から頬をぶたれた

いっそのこと、殺してくれても私は君に感謝できるくらいの心は持っている

私は己をよく理解している、最低の父親だ


私は精いっぱいの勇気を出して、君の連絡先を尋ねた

もう、辛い思いをしたくないのもあるが

わずかでも君と繋がっていたいと思ったからだ


私は翌日から、再び仕事に励んだ

ソフィアに悲しい思いをさせないため

いつの日か君に「謝罪」を受け入れてもらえるよう

かつての勤勉な私を、偽りなく見せたかったからだ


いつか君に、せめてお金を渡したいと思ったことも事実だ

もちろん、金なんかで君の心が揺らいで

私を許してもらえるなどと甘く考えてはいない

37年間、君に何一つ父親としての責務を果たせなかった私だ

欲しい物でも買ってもらう足しにしてくれれば、それで十分だ

そう思って、必死に働いた

もちろん、ソフィアへの愛情だって一瞬たりともこぼしたことはない

その後に生まれたファティマへの想いも同様だ


ただ、あまりにも私は躍起になりすぎた

君やソフィア、ファティマを想う気持ちが強すぎて

いつしか妻の心は、私から離れていった

ファティマを生んで間もなく、妻は別の男の元へ去ってしまった


それについて、私は悲しんだが

それもまた自分の行いが良くなかったことなのだ

受け入れる以外に選択肢はなかった


もう少しで60歳を迎える私にとって子育ては、とても大変なものだった

しかし、子育てを辛いと思ったり放棄したいと考えたことは無い

一緒に過ごせるだけで、とても幸せだった

この時間が永遠に続けばいい、そう思うほどだ



だが、神は愚かなる私に時間を与えないと決めたようだ

先日、体調が優れず私は医者にかかった

病気と余命を下され

私は絶望に叩き落された


体の自由が少しずつ利かなくなるのが、日々わかった

どこから話を聞きつけたのか

別れた妻が家に舞い戻り、娘たちのために貯めた金も持ち去ってしまった

私は金に執着があるわけじゃない

しかしながら、あの金は君を含めた3人の子に残そうと決めたものだ

私は自由が利かない体をおして、別れた妻の元へ向かったが

金も妻も、私の知る範囲からいなくなっていた


私はひとつだけ決意していた

病気を治せるものなら、治療に専念するが

治らないことはわかっていた

延命措置は、ただの金の消費だ

残ったわすかな金は、ソフィアとファティマが生き残るために使いたい

だから、一切の治療を拒否すると決めた


残されたわずかな時間を

私は懸命に働いた

しかしながら、もう私の体は重い荷物を運べず

娘たちを見るための目も、かすんできていた



私は毎日、悩んでいた

あの日君に教えてもらった電話に

繋げていいものか、と

君の声を聴くことは、許されるものなのか、と


そして、君の思いを想像することで

私の気持ちは決まった

「君には、私が死ぬ間際になるまで弱音を吐かない」と



おそらく、この現状は

私が父親としての行いを君に全うできなかった報いであると考えた

そして

二度とそうならないように

ソフィアとファティマに、愛情を注ぎこんだ



二人に、毎日君の話をした

海の向こうに、とても美しいお姫様がいて

そのお姫様は二人の家族なのだ、と


子どもたちは目を輝かせて、何度も私に質問した

お姫様は誰なの?」

お姫様パパはどうして知り合ってるの?」

私は、その問いに答えられなかった

しかしながら、娘たちは自ら答えを導き出した


お姫様は、きっと私たちのママなの」


私はそれを否定したかったが

父親であることを自覚すればするほど、否定できなかった



子どもたちは素直でいい子だ

そして、去った妻の事は二人ともほとんど覚えていない

しかし、悪い母であったとは言い難い

そうさせてしまったのは、私が何も出来なかったからだ


私にとって、後悔することは

君の成長をまともに見ることをしなかったことと

君を含めた子どもたちの今後を見届けられないことだ

共に笑いあい、楽しみ、時には衝突をし

そしていつの日か、恋人へ”君を守る役”を引き継ぐことが私の務めだと信じてきた

それが出来ないことがとても心苦しい


死ぬことは恐れていない

嬉しいこともたくさんあった

一番は、君の娘と対面できたことだ

とても可愛く、強い目で私を見つめてくれた

例えそれが憎しみの気持ちからだとしても、私は嬉しかった


さあ、後は召される日を迎えるだけだ

後の事は心配しなくていい

全ては自前でどうにかできる

ただ、ひとつだけ

ソフィアとファティマの今後を、たまにでいいから見ていてほしい

別れることは辛いことだが、それも私の愚かさが招いた現実だ

彼女たちにはそれらを受け入れる以外の術はない

安心してほしい、彼女たちは私と暮らすよりも快適な環境で

これから大人になっていくんだと私は信じている

方々に彼女たちの事はお願いしている、何も問題は無いんだ




私は、いつの日でもたとえ召された後でも

いつでも君たちのことだけを想っている



最初で最後だから、名乗らせてくれ




”あなたの父より”








~終わり~












前にみなさんにお話をした通り

既に遺伝子上の父は、亡くなってます

この手紙は、息を引き取る際に受け取り

本人なりに色々と悩み、しかしどうしても誤解だけはされたくない思いで

書いたんだと思います


だからといって、私の気持ちがガラっと変わるわけではないですが

娘たちを大切にしていたのは事実だと思います

現に、ソフィアもファティマも父親が大好きですからね


子どもは、パパ悪口を言われたくないと思うので

私はこの子たちの前では、一切悪く言わない様にしてます

怨んでますけどね

憎んでるのも事実ですし


でも、ずっと探してくれていたというのは嘘じゃないと思います

遺品整理で出てきたパスポート

羽田、成田伊丹福岡など

日本の空港でのスタンプがしっかり押されてますので

本当に私を探してくれていたんだと思います


それについては、認めてます

だからこそ、子どもを引き取ったんです



ま、辛い思いをするのは

もう誰もしないでいいんじゃないかな


と、考えてます

このウラログへのコメント

  • bluesky 2023年01月22日 09:02

    父上も悩み苦しんでいたんですね。
    貴女が二人の幼い妹たちと出会えて本当に良かったと思います。

  • ビンチョウ 2023年01月22日 10:00

    イチゴさん、こんにちは。

    隅々まで読ませていただき、経緯よく理解しました。

    子を産み、育てる日美子さんの想い。
    受け入れて結婚されたお義父様の優しさ。
    私はそんなところに思いが巡りました

  • SPARC 2023年01月22日 10:03

    何とも切ない話ですねぇ。
    運命の悪戯って感じです。

  • イチゴちゃん 2023年01月22日 10:28

    > ビンチョウさん

    日美子は私に虐待して、男をとっかえひっかえしてましたよ
    どんな想いがあるっていうんでしょう?
    経緯をどう理解したんです?詳しく教えてください

  • 幾三 2023年01月22日 10:59

    貴女の数奇な運命を知り、それを乗り越え今日まで来られた貴女の強さを感じました。
    そして多くの人が貴女を大切に思っていることを感じました。これからも貴女の事を応援したいと思います。

  • かたち 2023年01月22日 11:38

    ボタンのかけ違いから生まれた、たくさんの、とてもとても深い悲しみが溢れてくる。今日の幸福の感謝しながら、前を向いて、強く生きなくちゃ。そう励まされた気持ちです。

  • azamino 2023年01月22日 14:25

    私も同じ男、父上の気持ちを素直に文面通りに受け取れます
    あと何年生きられるか、その日々や時間を後悔無く過ごすにはどうすればよいか、真剣に考えます
    亡き妻との別居中の娘が、イチゴさん貴女と同い年ですから

  • しんじろー 2023年01月22日 23:29

    複雑な心中お察しします。
    それでもソフィアさんやファティマさんを大切にしようとされる心の在りようが素晴らしいと思います。

  • ビンチョウ 2023年01月23日 00:12

    図らずも不愉快な思いをさせてしまい、大変失礼致しました。
    当時の時点で
    愛する人の子を身籠もり、突然去られ、産む決断をし、愛してない方と結婚を…。
    その間、どんな思いが彼女の心中を巡ったのだろうかと。

  • ひろ 2023年01月23日 00:22

    妹2人の事はご存知だったんですね
    アンちゃんも・・・?

    子供に罪はないですからね

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