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湧水 - 後編

2011年01月24日 23:54

●常に私に飢えていた


  フロイトが、夢を「抑圧した願望がもたらすもの」と
  定義したのは有名な話だが、そういう意味では、
  私が最近見る夢はストレート過ぎるほどそれに当てはまっていた。

  どうやら私の性欲は、衰えていなかったようだ。
  ただ、夫に失望されているという事実を受け止めるのが恐ろしく、
  あえて自分から彼を求めるようなことはしなかっただけである。

  夢に出てくる孝則は、
  よく考えると出会った頃の彼そのものだった。
  精力的で若々しく、常に私に飢えていた孝則。
  心の奥底に埋没していた遠い記憶の中の彼が、
  私の願望を充足するために蘇ったのだろう。

  そして抱かれている私はと言えば、
  愛されることに何の疑問も矛盾も感じず、
  純粋に女の幸せに溺れる瑞々しい若者に戻っていた。
  決して今の私ではない。

  背を向け静かに眠る孝則の横で、
  隠微な夢を見るようになった私は、
  不思議なことに少しずつ女としての自信を取り戻していった。

  求められた記憶が再生されるごとに、
  内側から若返るような気分になるのである。
  しかし、気分だけでは簡単に現実まで変えられないことを思い知る。
  ある日私は、自分の裸を鏡に映してみた。

  久しぶりに見る裸体は、
  記憶にある自分とはずいぶん違うように思えた。
  私の肌には、もっと透明感があったような気がする。
  お尻も胸もあと数ミリは上に上がっていたし、
  ウエストは数センチ細かったはず。
  もはや誰にも見られることはないと思い込み、
  手入れを怠っていた報いであろう。

  素っ裸の自分を見ていると、急に涙があふれてきた。
  みじめさに打ちのめされて流した涙の一滴が、
  私の胸にポトリポトリと弾けてはすべり落ちた。

  次の日から私は、孝則の居ない時間を見計らって
  部屋でヨガを始めた。
  バスタイムには、半身浴をしながらマッサージも行った。
  ボディーソープ入浴剤シャンプーリンスなどは、
  すべて美容を意識したものに変えた。

  毎日鏡に全裸姿を映し、
  身体を隅々までチェックすることも習慣にする。
  もうみじめな涙は流したくない。
  孝則の背中を見ながら眠るのもうんざりだ。



  ●私の奥をかきまわし続け…


  「曜子…」
  耳元で孝則が、私の名をささやいている。
  またあの夢が始まったのだ。

  「曜子…、ねえもう寝ちゃった?」
  彼の吐息のぬくもりが、耳全体をふわりと包む。
  「寝ちゃった?」なんて、夢の中で聞いてどうするの…
  ぼんやりした意識の中で苦笑する。
  するといきなり、ひんやりとした手が私の胸をつかんだ。

  えっ?
  「曜子は最近変わったよね。なんだかキレイになった…。
  しかも、久々に君の肌に触れてみたら驚くほどスベスベだ。
  どうしたの?
  もしかして浮気でもしてるんじゃないかって心配になっちゃうよ」
  そう言いながら、孝則は私の首筋にそっとキスをした。

  「すごくいい匂いがする…」
  硬くなった彼自身が、私の背中に押し付けられる。
  まぎれもなく現実に、孝則は私を求めていた。
  孝則は、背後からパジャマボタンをはずし始めたかと思うと、
  あっという間に私を裸にしてしまった。

  孝則の愛撫は、夢の中以上に情熱的だった。
  私の肌を手のひらでゆっくりと丁寧に味わい、
  そしてあらゆる箇所に唇を這わせた。
  「愛してる…」
  力強く抱きしめられながら孝則にそうささやかれた瞬間、
  ダムが決壊したかのごとく私の泉からとめどなく新鮮な水は溢れ出た。

  内ももをつたう熱い感触…。
  そして彼は、その泉に勢いよく分け入り
  激しい波しぶきを起こしながら、
  私の奥をかきまわし続ける。

  私の頭の中は真っ白になり、
  夢かうつつか判断がつかなくなる。
  ああ…もうダメ…頂上に達する感覚がありありとわかり、
  私は叫びに近い声をあげた。
  そして孝則の呻きが後に続く。

  孝則から与えられた本物の絶頂は、
  私を温かな光で包み込んだ。
  いつまでも覚めない夢の中で、私達は深い眠りに落ちた。

-------------------------END----------------------------

 先日の前編に続きまして後編を御送り致しました

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