『KISS NOTE』　～　プロローグ　～

“疲れたぁ…。”誰もいないオフィスで、一人帰宅の身支度…。
普段と同じ光景…。“また、俺が最後かぁ…。”
オフィスのブレーカー落として、室内灯を消して…、
トイレの電気も消して、当然女子トイレの電気も…。
“あぁあ、なんか虚しいなぁ…。一応課長だぜぇ…。”
“ここまでしなきゃダメなのかなぁ…。”


比留魔　光（ひるま　こう）、４１歳既婚者で、平凡なサラリーマン。
結婚はしているものの、子供には恵まれず、２人（２匹）の愛娘（愛犬）が、
いる（飼っている）。
会社と家の行き来、妻ともイマイチな生活を繰り返し、
愛娘（愛犬）が出迎えてくれて、甘えてくれるのが、一番の楽しみ…。


“いつものように、鍵締めればいいんでしょっ”と鍵を手にして、
そんな愚痴を吐き捨てるように、エレベータボタンを押して、
ちょっとだけ、忘れ物の心配…。
“これで、泥棒でも入れば、俺の責任ってかぁ？（笑）”
いつもの流れ作業という感じで、エレベータで１階のボタンを押して、
エレベータの中でも、戸締まりの心配したりして。
１階で守衛さんに鍵を返却…。
“お疲れぇっしたぁ！！”と元気よく、見せかけだけのご挨拶。

会社を後にして、ちょっと迷い気味の光…。
“このまま帰ってもなぁ…。飲みに行こうっかなぁ…。”
ここ最近、光は、はまっていることがある。
帰宅直前に地元の居酒屋で、暖かく感じられる会話と、ネット…。
何度か通う内、親しくなった居酒屋の店長、スタッフ…。顔が浮かぶ。
お酒好きの光は、悩む。
“他の居酒屋寄って、開拓しようかなぁ…。”
“でもなぁ、落ち着くし、個室っぽいから安心してパソコン使えるしなぁ…。”
これも、いつもの生活の流れ。そして、いつもの悩み。
気持ちは決まっているのだから、悩むのは光もおかしいと気づいている。

悩んだあげく、電車の中で判断することに。
でも、本心は決まっていて、電車の中で結論は、いつも通りになっていた。

割と混んでいる「なんちゃって東北線」に乗り、いざ地元のいつもの居酒屋へ移動！！
帰宅ではなく、居酒屋への移動が、日常の流れ。

ふと気づく。何かおかしい…。
いつもと同じ時間の電車、車両なのに、一部空いている。
そこには、汚い身なりをした、男。
駅を幾つか過ぎた所で、その男の隣が空いた。
自然と何も考えないまま、光はその隣の席に…。
これまた、いつもの流れで、鞄の中から『数独』を取り出し、
『数独』に没頭…。
ふと、光が気づくと周りの人の目が、自分の方へ…。
“そっかぁ、こんな所に座るの、変かなぁ…。”
“まぁ、座ってしまったから、我慢するかぁ…。”

数独にはまって、早、半年、解けない問題は無い
（時間はかかっても、間違ったら最初っからでも）という自負があり、
電車の中では自分の世界。

ふと、煮詰まって、なにげに上を見上げたら、

『KISS NOTE』

の文字が…。
“ん…？”
“ったく、雑誌とか新聞、自分でゴミ箱に捨てろっつぅの！！”
普段の光景と思い、文句を言う光。

気づくと、もうすぐ地元の駅。
さらに光は気づいた、車両の中は、あの男と二人きり…。
“何か違うよねぇ…。こいつのせいかぁ？”
声にならない、心の声に怒りも含めて、
光は、“はぁ～っ”っと深いため息を吐いた。
ありきたりの流れとのほんのわずかなずれに、
ちょっと迷い、ちょっとだけ納得した光。

しかし、この一瞬の出会いが、光の生活を大きく変えていく…。