命日

菩提寺から兄の元へ、はがきが届いた。
１３回忌になりますとの通知。
（もう、１２年も経ったんですねぇ。）

「早いなぁ。」「早いねぇ。」
電話越しに兄と話しながら、その人の人生を思う。

暴力夫と、引き篭もりの息子。
残りの二人は、かっとび娘に、堅物の長男。
この人の人生ってなんだったんだろう。。。

結婚前のことは、あまり話さなかったので（聞かなかったのか）
知らないが。

お見合い結婚で結ばれた相手は、アルコール依存症で、
飲むと暴力を振るった。
外でのトラブルも絶えなかった。
ケンカ相手をナイフで傷つけて警察のお世話になったことも。
幸い怪我が軽く大事には至らなかったけど。
一応働いてはいるし、生活費も入れてはいる。
でも。愛情がない。
いや、愛情の表し方がわからなかったのだろう。
暴力を振るう夫から子供を守る。
それだけで、精一杯の日々。
それでも、彼女はいつも笑ってた。
ニコニコしながら、ミシンを踏んで三人の服を作っていた。
「お兄ちゃんと、ゆきちゃんには、青いチェックでね。」
「えりちゃんは、ピンクにしたよ。」
お手製のブラウスは、いつもどこかが変だった。（笑）
でも、暖かだった。

子供達が大きくなっても苦労は少しも減らなかった。
いや。益々増えた。
夫の暴力は相変わらず。
そんな父親に兄は反発し、家を出て行った。
かっとび娘は、「なんで離婚しなの？」「四人で暮らそうよ。」と
責めはするけど、協力はしてくれない。
「お金ならなんとかなるって」
それだけの問題では、ないことはわかってる。
そして。
次男の引き篭もり。。。
暴力は振るわなかったけど、人を寄せ付けない日々が６年間。
父親はそんな彼を罵倒し殴った。
黙って殴られている息子をかばって自分が殴られていたっけ。
それでも、彼女はいつも笑ってた。
ニコニコしながら、台所に立っていた。
「えりちゃんもたまには、お料理手伝ってや。ええお嫁さんになれへんよ。」
「ゆきちゃんは、そっとしておいたらええの。」
「そのうち、笑って部屋から出てくるから。」
世界一まずいカレーを作ったね。（笑）

娘の結婚式の日もニコニコ笑ってた。
「旦那さんを大切にしなさい」
この人らしい一言。

次男が自殺した日。
この人の涙を初めてみたような気がする。
一生分の涙を流して。。
「苦しかったでしょ。ごめんね、ごめんね。」
いつまでも息子の体を撫ぜていた。

それから１年も経たないうちに、彼女も逝ってしまった。
胃癌だった。
病院へ行った時には、もう手遅れ状態。体中に転移していた。
「あと、１ヶ月ももたなので、告知はしないでおきましょうね」
お医者さんの声が冷たく響いた。
進行性の癌とはいえ、そんな状態になるまで。。
よほど、我慢していたのだろう。
「病院は、いやや。早よ、家に帰りたいわ。」
自宅療養という形で退院したけれど。
認知症の夫は、妻の病気の重大さも知らずに相変わらず怒鳴りつける。
療養どころではなかったろうに。
それでも、彼女は最期まで笑ってた。
「えりちゃん。毎日実家に帰って来てたら、ダンナに逃げられるで」
「お父さん。すっかりボケたねぇ。」
「後のことよろしく頼みます。」

亡くなったとき、不思議に涙がでなかった。
冷たくなった額を撫ぜながらつぶやいた。
「あんたの人生ってなんやったん。」
お葬式の後、火葬場で泣いた。
甘えん坊の娘は、母親がいなくなったことが淋しくて辛くて泣いた。

あれから、１２年。
未だに思う。
お母ちゃんの人生ってなんだったんだろう。。。

お母ちゃん。
そっちの世界では、幸せに暮らしていますか？
大好きなイチゴ大福は食べてますか？
３年遅れてお父ちゃんも行ったけど、めぐり逢えましたか？
えっ！あんな人ともうめぐり逢いたくは無いって。（笑）
私は、相変わらずかっとんでいますが、ダンナとなんとか生きてます。
いずれは、そっちへ行くからね。
また、あなたの子供にしてください。
苦労が増えるからイヤだって。
ま。それは、いえてる。（笑）

３月になったら、母親の命日がやってくる。
大好きなイチゴ大福を沢山買って迎えてあげよう。