伝説の来栖君②

ある週末、オフィスにて
（昔の話）


来栖君「あの、イチゴ先輩」

私「な～に～？」

来栖君「あの、今日は両親と食事に行く約束がありまして・・・」

私「ほ～ほ～」

来栖君「なので、定時で帰っても宜しいでしょうか？」

私「朝にお願いしたお仕事が終わってれば、いいよ～」

来栖君「はい！それはもう昼前に終わりまして」

私「昼前に終わって、夕方の今まで何してたの？」

来栖君「何度も見返してました。間違ってたらいけないと思いまして」

私「これ、大抵の人は間違わないくらい簡単な仕事だよ。
時間が無駄だから、そういうの次からやめてね」

来栖君「あ、はい！わかりました」

来栖君「じゃ、お先に失礼し・・・」

私「来栖君ちょっと待って～」

来栖君「はい？何でしょう」

私「このお願いしてた物品表。何で購入予算が5000万なのに、購入代金総額が40億になってんの？
何買ったらこんな金額になるの？」

来栖君「いえ、それは表の数字をそのまま入れてたらそうなりまして」

私「いやいや、財布に5000円しかないのに40万円のお買い物はしないし出来ないでしょ？
エラー出るんだから、気づかないわけないでしょ」

来栖君「ああ、それはちゃんと出てました」

私「え？」

来栖君「（パソコン）画面にちゃんと赤文字で
”支出の金額に誤りがあります”って出てました」

私「出てて、どうしたの？」

来栖君「はい。表では間違ってないので、そのまま入力しました」

私「君はバカなのか？」

来栖君「いや、でもそういう表だったので・・・」

私「あのね、表の数字が間違ってるかを見つけるのがこのソフトなの。
金額が違うって表示されたら、どこかで間違ってる可能性が高いの。
どこの課から来た表なの？確認しないと」

来栖君「あ、いや、でも、僕はそろそろ約束の時間になっちゃうので・・・」

私「来栖君！」

来栖君「はい」

私「君、無責任すぎるよ。いい？うちの会社は申告通りに商品を仕入れないと
国際取引法とかも順守しないといけないから、数間違いと金額間違いはものすごく確認するの。
その売り上げからお給料が出てるんだよ？それわかって言ってるの？」

来栖君「はい、いや、でもイチゴ先輩が何度も”人との約束を守るのが社会人”っておっしゃってたので」

私「もういいや、帰りな」

来栖君「あ、はい！じゃ、お先に失礼します」

その後

各部署に確認し、金額の設定ミス＆桁間違いが発覚（来栖君の失態）

～翌週～

来栖君「（内線に出て）はい、来栖です。はい、はい、えっ？今ですか？はい、わかりました」

来栖君「イチゴ先輩、人事でちょっと来なさいって言うんで行ってきます」

私「はいは～い」

～2時間後～

来栖君「・・・（無言で着席）」

～20分ほど何もせず～

私「来栖君、仕事してよ」

来栖君「あ、はい」

私「何でボーっとしてるの？」

来栖君「いや、人事に行きましたら・・・」

私「お給料でも減らされたの？」

来栖君「いえ、そういうわけじゃないんですけど・・・」

私「じゃあいいじゃん」

来栖君「あの、人事の部長とかってご存じですか？」

私「吉田部長（仮名）？仲良いよ～」

来栖君「だから、ですかね？」

私「何が？」

来栖君「いや、”金曜日に君は何をした？”って言われまして」

私「それで？」

来栖君「あの、かなり叱られまして」

私「吉田部長に？」

来栖君「いや、他の方もたくさんいまして」

私「？」

来栖君「あの、金曜日に定時で帰ったことを責められまして」

私「え？吉田さんそんな人じゃないよ」

来栖君「いえ、すっごい怒られました」

私「なんて怒られたの？」

来栖君「イチゴ先輩にミスを押し付けて自分は帰るって、何やってるんだ。とか
自分のミスを人に任せて定時で帰るなんて、君は何を考えてるんだ。とか」

私「その通りだねぇ」

来栖君「え？うちって定時で帰っちゃいけない会社なんですか？」

私「どこの会社でも、自分でミス作っておいて
人に押し付けて帰るアホは許さないと思うよ」

来栖君「えっ？でもあれは僕の間違いではないんじゃないか、と」

私「これ、見てみる？こっちが資材（部署名）から届いた購入表。
で、こっちの表が君がまとめたもの」

来栖君「・・・どこかおかしいですか？」

私「資材のほうで申告してるのは、消しゴムとセロテープね、これが4万と少々。
で、君がまとめた方だと400万と少々」

来栖君「・・・うっかりですね」

私「で、こっちは総務のほうで購入した椅子の申請。金額は160万ね。
で、こっちが君のまとめたやつで、金額が1億600万」

来栖君「・・・ついついうっかりと」

私「こんなミスが10数か所。この表、昼前にまとめて午後いっぱい確認してたって言ったよね？」

来栖君「はい」

私「どこをどう確認したの？」

来栖君「すみません」

私「人事でそれを言われたんじゃないの？」

来栖君「いえ、他の部署の人がたくさんいまして・・・」

私「何で？」

来栖君「で、イチゴ先輩が夜中まで確認して仕上げたんだぞ。とか
お前は会社に来てイチゴ先輩に迷惑かけに来てるのか！とか」

私「各部署に数字をもう一度上げてくれって言ったから、それで知れ渡ったんじゃないかな」

来栖君「えっ？じゃあイチゴ先輩が確認さえしなかったら、僕は怒られなかったってことじゃないですか」

私「ちげーよ！お前が間違わなかったらそもそも叱られてねぇって話だよ！！」

来栖君「でも、エコ贔屓ですよね」

私「何が？」

来栖君「イチゴ先輩は優遇されてるじゃないですか」

私「どこらへんで？」

来栖君「僕は怒られてばかりで、嫌になります」

私「来栖君。そもそも君が仕事で大きなミスをしなければ
誰も怒ったりしないんだよ」

来栖君「それはわかるんですけど」

来栖君「でも、イチゴ先輩は怒られないじゃないですか」

私「だって、私はミスしたらちゃんと修正するもん」

来栖君「僕もしてますよ！」

私「してね～よ！そもそもお前、仕事が天文学的に遅せ～じゃんか！
2時間もあれば終わる入力、何週間やってんだよ！ってこと何度もあるじゃん」

来栖君「いや、あれは」

私「お前が2週間かけて仕事をしても、お給料は一緒。
でも、お前がのんびり仕事をしてる横で、お前以外の人たちが必死になってお仕事してるから
お前の分のお給料が出てるわけ。ちょっとは自覚しなよ」

来栖君「いや、でも・・・」

私「でも、じゃないんだよね。君は自分でお給料稼いでる気になってるかもしれないけど
先月、今月で君がやったお仕事は、普通の人の5000分の1程度の量と内容。
要領のいい小学生でも達成できるくらい、余裕なものね。
それでいい気になって”僕は仕事できます”的な自己アピールしてたけど
人事評価で当然、引っかかると思うんだよね。
だって実際、仕事からとにかく逃げるじゃん」

来栖君「・・・」

私「それで呼ばれたんだと思うよ。だって金曜に私が各課にお願いして
”もう一回集計にご協力ください”って言って回ったんだもん。
下手すりゃ決算で株主が怒り出すくらいのミスだよ」

来栖君「・・・」

私「わかった？」

来栖君「・・・はい」

私「一応言っておくけど、私は何もチクったりしてないからね。
私があちこちで頭下げてるのを見て、君に怒りを覚えた人が多かったってことだと思うの」

来栖君「・・・気を付けます」

私「気を付けるんじゃなく、いかに自分勝手に行動してたか理解するといいよ。
次はたぶん、クビだと思う」

来栖君「・・・はい」

私「じゃ、私は帰りま～す」





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