- 名前
- ぱすかる
- 性別
- ♂
- 年齢
- 73歳
- 住所
- 福島
- 自己紹介
- 中身は40代。 気が弱く臆病だが、ココロは獰猛。
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車掌
2012年07月02日 21:59
むかし。ボンネットバスというものがはしっていた。
前にエンジンがあって、後ろに運転席と客席がある、ま、トラックのようなもんだな。
今は、ワンマンが当たり前だが、昔は車掌、たいがい女だったな、
この女の車掌は、飛行機のスチュワーデスとまでは行かないが、
かなり人気職種だった。
女の高卒だと、車掌は人気職業のキャリアウーマンだ。
中卒だと、だいたい、デパートの売り子か紡績工場か、テレビ工場。
うんで、このキャリアウーマン、女車掌は、車掌と言えば若い女だった。
この車掌が、ホイッスルでバスを誘導するのがとてもうまい、
見ていて、ほれぼれする、
ピッ、ピッ、ピッー、
バックで川の縁できちんと止まる、後1cmで、川に落ちそうだ。
思わず、拍手だ。
冬は雪で滑る、あたりまえだわな。
安積国造神社の八幡坂は、結構急だ。
雪で、案の定、バスは上れない、
車掌は慌てる様子もなく、乗客を降ろさせて、
バスの後ろに押すように指示する、
乗客は当たり前のように、車掌の指示に素直に従う、
でないと、一向に進まないからだ。
得意のホイッスルで、
ピーッ、ピーッ、ピー、
乗客は一糸乱れずにバスを押す。
少しずつ動いて、
乗客も坂の中腹まできたところでは、疲れが出たと見えて、
バスもアブナイ。
すかさず、車掌は
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
一気にまくし立てる、乗客は全部、渾身の力を振り絞って、
バスを坂道の頂上に押し上げる。
涼しい顔して車掌は、バスの運転席の隣に乗り込んで、
乗客から尊敬の視線を浴びる。むろん、運転手も労をねぎらう。
ある夏の日、
母親の実家に盆帰りで行くのに、バスで行かなければならない。
母親はバス酔いが甚だしい。
暑くて体調は思わしくない、顔から脂汗が出始めている。
バス酔いは、別段車掌にとっても珍しくない、
あの車掌特有の鰐口バックの隣に、ビニール袋を腰につけている。
バス酔い客が出るとすかさず、そのビニール袋を取り出して、処理してやる。
乗客から尊敬の念を、勝ち取っている。
母の実家に行く道はでこぼこ道で、はなはだ揺れる。
炎天下の暑さで道路は砂埃が夥しい、
うんで、乾いた埃が入らないように、バスの窓は全部閉め切っている。
バスの中の温度は、たぶん、50度は超えていただろう、
乗客全員が、汗は滝のようだ。
とうとう、母はバスの揺れと暑さにたまらず、ゲロを吐いた。
すかさず、それを見た車掌は駆け寄ってきた、
通常なら、なにごともなく用意しているビニール袋に収まるはずだが、
あいにく揺れが、バスが突き上げられてよろめいたところに、
母のゲロが、あろうことか、車掌のアノ鰐口ハンドバッグに入ってしまった。
ギャあっ、
車掌の理性が吹っ飛んでしまった、
アノ涼しい顔は吹っ飛んでしまった、
形相は引き攣ってしまった、
とっさに走って、バスのドアを開けて、
くだんの鰐口ハンドバッグを力一杯放り投げた、
と、同時に、
砂埃が、車掌の体を包み、雪崩のように吹き上げて入ってきた。
それでもバスはなにごともなく、走り続けた。
炎天下の田舎のおんぼろバスは、火の車だった。
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