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車掌2

2012年07月08日 12:19

京都浪人していたとき、予備校にはバスか、叡電で通っていた。
ほとんど叡電だったが、ときたまバスを使った。

今まあるかどうか知らないが、その頃京都市電が走っていた、
どこへ行くのにも5円ですんだ。
出町柳で降りて市電に乗らなければならない。

バスは予備校の前が停車場で直に下宿宝ヶ池まで通っていた。


4月の春爛漫、知らない土地での不安感と期待感で、毎日がドキドキだった。

見るもの聞くものが珍しい、うんで、19の多感な青年だ。

予備校の授業は午前中で飽きたので、午後には帰った。
市電で乗り換えて叡電で帰るのも面倒だったので、
その日はバスで帰ることにした。

待っていたバスに乗り込むと、それなりに人はいたが、混んでいるほどではなかった。

予備校から宝ヶ池の終点までは、だいたい、20分くらいかかる。
各停ごとに、だんだん、乗客は少なくなる。

終点まで後半分となったとき、乗客もまばらになった。

終点の停留場手前2つの時に乗っていた乗客は、
オレともう一人の大学生よりも年配そうな、25から27くらいの大学院生か、助手のように思えた。
その院生らしき男は腕を組んで不機嫌そうに苦り切った顔していた。

終点の一歩手前で、その大学院生とおぼしき男は、降りようとして出口に向かった。

それまで愛想の良かった背の低い小太りの車掌に、その院生助手とおぼしき男は、
切符でなく、車掌の掌に小銭を叩きつけた。
車掌の掌に叩きつけらレた小銭は勢い余って、床まで飛び散った。
うんで、すたすた、不機嫌に降りていった。

小銭を掌に叩きつけられた小太りの背の低い車掌は、キレた。

すかさず、25,6の大学院生助手とおぼしき男を追いかけていった。

若い男は、もう、50m先に行っていた、が、駆け足で追いついて、
小太り気味の背の小さい車掌は、かなり背の高い院生助手とおぼしき若い男に、
すごい剣幕で噛みついた、

バスに乗っているオレのところまで聞こえたから、かなり大きい声だった。

あんた、アレはどういうことなの、

助手とおぼしき男は黙っている。

あんた、あんなことして、謝りなさいよ。

その男は無言でいた。

謝りなさいよ、

それでも、助手とおぼしき男は無言でいた、

若い女の背の低い小太り気味の車掌は、だんだん苛立ちがもっと昂じてきた。

アヤマリナサイ、

もう、どうにも収まりがつかなくなってしまった。

助手とおぼしき若い男もイラダチながらも、そこから動けなくなってしまった、

小太りの背の小さい車掌は、食い下がる、

アンタ、アヤマラナイノ、

アヤマリナサイ、

繰り返し騒ぐ。

とうとう、大学院生助手とおぼしき若い背の高い男は、

車掌の顔を見ないでぺこり、

あんた、どっち向いてあやまってんのよ、

大きい声で喚いた。

構わず、助手とおぼしき背の高い男は、一目散に、背の低い車掌から足早に離れていった。

それでも小太りの背の低い車掌は、

ちゃんと前を向いてあやまんなさいよ。

助手とおぼしき背の高い男の背中に、大声で浴びせた。


オレはこれを見ていて、感動と恐怖の震いの両方で、おかしくなってしまった。

そこで降りてしまった、

19の青年はまだウブだった。


今でもアノ小太りの背の小さい車掌は、
プライドなのか、
タダの気が強い女のか、
わからない。

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