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一つのマグカップ

2010年11月07日 08:59

一つのマグカップ







今、手にとることが出来なくても
心の小部屋にはいつまでも色焦ることなく
当時のままの面影を残している
物たちがある。

その一つに、おそらくは手作りであろう
マグカップがある。手作りといっても
ある人にいただいてから他の店頭
たまに同じようなデザインをみかけていたから
ある程度有名な人が生産していたと
思われるマグカップ。

縦長の素焼きのカップの取手部分には
小人らしき人が愛らしい顔をして
ちょこんとしがみついてこらちを
覗き込むような顔をしている。

子供の頃にいただいたが、素焼きのあと
上薬を塗ってつやつやになった内側には
そのカップで持ち主がいつも珈琲お茶
のんでいた茶渋がこびりついていて
長く使いこなされてきたのだと
感じていた。

このカップを貰ったのは
サナトリウムでだった。

まだサナトリウムがどのような人達が
医療に縛られ日常を過ごしているか
人生の一部分を過ごし続けて出られずにいるか
知らずに入った私は、親しくして可愛がってもらった
患者のうちの一人の女性に貰った。

もうじき手術を終えて退院だと決まったとき
彼女は私に何かあげるものを、退院祝いでも、と
自分の病室に招いてくれた。

そんなものはいらないから平気、と必死に
言ったような気がするけれど
彼女はどうしても何かあげたそうにしていた。

そして「このカップとかは使う?かわいいのよ。」
と差し出してくれた。

私にとってカップなど特に欲しいとも
思っていなかった。
どちらかというとくれるというなら
彼女を自由にしてくれる魔法とか
彼女も連れて退院する許可制度くらい
欲しいとか
そんなことしか頭に浮かばなかったけれど
現実がそうではないことを
さんざん聞かされてわかっていた。

手にのせられたカップは重くて大きく感じた。

私にとってのサナトリウムからの退院
難しい手術に成功し、退院することは
嬉しいけれど、同時に当時にはまだ珍しい
産みの親からの激しい児童虐待をされる
恐怖の家に連れ戻されることでもあった。

私はそれを病院のだれにも
いえなかった。

もう何年もここから出た事がないという
その患者女性事故で足の機能がやられていたので
移動はいつも松葉杖
場合によっては再手術になるのだという。

私だけが退院してしまうのは
年齢仕事、性別関係なく入院患者という仲間になった
人との別れに際して、どうにも
申し訳なく感じてしまう。

彼女に、ころあいを見計らってそれとなく
退院の目安を聞いてみたことがある。

夕陽のあたる病室で、彼女に聞くと見当もつかないし
このままずっといるかもしれないと
寂しそうに笑い、五十をとうに過ぎた白髪まじりの
髪を束ねながら、半ば諦め顔で
それでもそれは仕方ないのよ、と笑っていた。

眩しい夕陽の中、いただいた珈琲カップは
中の茶渋以外、つやのある部分だけが光って
あたたかい飲み物が今にも中で揺れそうに
見えてとても貴重な品物に思えてならなかった。

こうして、退院日が迫った頃にわざわざ
私を呼びつけて、退院祝いだから、と
くれたカップには、包装紙も何もないけれど
手の中に一つのカップを手にいれた私は
心から嬉しかったことをはっきり覚えている。

地獄のような激しい虐待が続く本来の家には
出来れば戻りたくなかったが容赦なく
退院日は訪れ、私は荷物の中にそのカップを
入れて帰宅した。

食器棚にお祝いにもらったからと
入れようとすると実母は「こんな汚いものを」と
露骨に不愉快な顔をした。
カップが、そこにこめられた真心が汚されたようで
とても悲しかったが

私にとってそのカップはまた一つ、生きる勇気を
与えてくれた。

数年後、私はあまりに激しい虐待生活に耐えかねて
助けてもくれない警察に救いを求めることも
諦め、真冬に一人、家を飛び出した。

マグカップに未練はあった。
けれど警察に捕まってまた地獄に連れ戻されることは
死ぬより怖いことだったので身ひとつで逃げるしかないと
決めた。

友達、知人、病院で知り合った人々にもらったものなど
数々のギフトを持って家を出る事は
こうして諦めることになったけれど
以来、いつでも心の中を覗けば
はっきりとそれらの贈り物たちが
記憶に残り続けて
確かに心に存在する。

彼女はどうしているだろうか
見舞い客など殆ど来なかった独り身の彼女
ことが今まで何度も気になった。

自由がきかない彼女のためにも
私はカップに毎日お茶をいれて
自分に与えられた自由を大切に使おうと
決めて生きてきたと思う。

一期一会
今の私を作ったのは
もっと厳密にいうなら今の私の精神力スピリット
生み出してくれたのは他ならない彼女や他の
多くのであった人達との日々に他ならないと
つくづく思う。

一人で生きてきたつもりなら
何が一体原動力になり何をどれだけ乗り越えられたか
まったく見当もつかない。

今日の朝はこの珈琲カップを磨いて
そして一杯のお茶をいれよう・・・。



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このデジログへのコメント

  • まりぃ 2010年11月08日 01:07

    > voxさん はじめまして、こんにちは、コメント有難うございます^^。署名のほう、どうも有難うございます。ご協力に心より、深く感謝いたします。頑張ります。

  • まりぃ 2010年11月08日 01:08

    > ひろぴんさん
     そう、その気持ちが大切ですね。そのために、それを人類に伝えるために、きっと太陽は昇るんだと思う^^

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