Tales of Planet Tecle １１

第一章　アファレスとウヴァルス

第四話　ミリサ　１


シフォルとコトルーとハルムの３人は、そのまま長い時間話し続けた
なにか結論が出るわけでもなく、いたずらに時は過ぎていき、シフォルが到着したときに暗くなり始めていた空は、また明るさを取り戻し始めていた

そして少しの沈黙のあとシフォルは

「リリルの家は空き家なのか？」

と訊いた

「ああ、主がおらんのでな

リリルが旅に出たあとはずっとイツキスが使っておったのだが、そのイツキスもまた旅に出た

あの子らが帰ってくるまでは私たち二人が管理しておるよ」

と、コトルーが答えると、シフォルは

「じゃあ、あの子たちが帰ってくるまでここで世話になるが良いか？」

と訊いた

「私たちは構わないけど、街はいいのか？」

と、コトルーは不審げに聞き返すと

「街は大丈夫だよ
わしはいつもたいしたことはしとらんからな

それよりも、イツキスたちからの連絡が来たらすぐに知らせてくれ
どんな些細なことでもな、わしもあの子たちが心配なんだ

で、これは当面の世話賃だと思ってとっておいてくれ」

と、鞄から出したのはスプリア大陸でしか採れない貴重な金属の数々だった

「あんたが素晴らしい細工を作ると言うのはアテネアだけでなくウヴィラでも有名でな
その細工を作る材料になればと思ってこれらを持ってきた

あの子たちが帰ってくるまでにはまだまだ時間がかかるだろうからな

それまでの間なにかをしながら待っていた方が気が楽だろうと思って、金属細工の材料を見繕ってきたってわけさ」

と、ハルムに向かって言うと、

「こんな貴重なものを･･･」

と、ハルムは少し目を輝かせながら絶句した

「そんな気を遣わんでもいいのに･･･」

と、コトルーが言うと、シフォルは

「気持ちの問題だ」

と笑った


そうしてシフォルがリリルの街に居座ることになった数日後

イツキスとエノアの二人は、ヌハまでの道程の途中で雨のためにミリサの街に足止めを食らっていた

テクル星の気候は概ね穏やかだけれども、変化の速度が遅く一度雨が降り出したらなかなか止まないし、晴れが続くときも同じようにずっと晴れの日が続く
だから二人がこの街に着いた頃にポツリポツリと降り出した雨は、もう３日も降り続いていた

エノアが

「この様子だと雨が止むのは明日の夕方くらいね」

と言うので、イツキスは

「あさっての朝までは出発できないっていうことか･･･」

と残念そうだ

でも、二人が休む場所を提供してくれているこの街のアファレスのミリサにとっては、めったに来ない客を迎えられたことで少し嬉しいひとときだったようだ
遠くから来た二人を退屈させないようにいろいろと世話をし、ミリサの街の様子や人々の暮らしなどを話したりして若い二人を篤くもてなした

ミリサは若いアファレスで、生まれてからまだ２０年しか経っていない
そして見た目は美しい女性の姿で、この街を預かるアファレスが代々ずっとその姿なのは、豊穣の女神と呼ばれる「ミリサ」の名前をずっと受け継いでいるからだと教えてくれた


スクロ川は河口付近の土地は肥えていて、豊かな農作物が収穫できるけれども、少し上流にさかのぼるととたんに土地は痩せ、農作物は育たなくなる
そこからもっと上流に行くと深い森があり、また豊かになるのだが、なぜか中流域とも言うべきところでは人々の暮らしは豊かとは言えない街が多かった

ミリサの街もそんな中流域にあり、土地は痩せていて農作物は育たず、いつも貧しい暮らしを強いられているそんな街の一つだった
ただ、街の周辺にはキシカの群生地があり、わずかに採れるキシカの繊維で糸を紡いで、それを売って生計を立てていた

キシカの繊維は糸は紡げても、その強靭さ故に思うような長さに切ることもままならず、限られた用途でしか使えないこともあってあまり高価なものではなかった
そんなキシカの葉からほんの僅かしか取れない繊維で糸を紡ぐ苦労から考えると、全く割に合わない仕事だった
ミリサはそんな街を預かるアファレスとして、キシカの糸を使った様々な新しい試みをしてきたけれども、２０歳になったばかりのミリサにはまだまだ思い通りにならないことが多かったようだ

そんなわけで、ミリサの街は豊穣の女神の名前を戴いていてもいつまでたっても豊かさとは縁遠いのだと、ミリサは話の中で幾度となく嘆いていた

そして、やっと雨が上がった日の朝のこと･･･


つづく･･･

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