- 名前
- 松田文学男爵
- 性別
- ♂
- 年齢
- 60歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- 君はきっと、 僕のことが好きなんだろう。 そんな君を前にすると、僕も君のことが好きな...
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渋谷にSというラブホテルがある。
2021年08月21日 00:36
渋谷にSというラブホテルがある。
そのホテルの一室は、心霊スポットとして有名だった。
ある時、女友達とその話題になり、二人で噂が本当なのか確かめてみようということになった。
どうせ終電がないならと、お酒の勢いでの悪ノリだった。
コンビニで追加のお酒を買い込み、心霊現象が起きるとされる203号室にチェックインした。
そのホテルは外観からしてかなりさびれた感じなのだが、部屋はさらにひどかった。部屋に入った瞬間、カビ臭さが鼻をついた。
ゴワゴワのシーツ。タバコの燃え跡や何だかわからない染みがカーペットに無数にあった。
シャワーを全開に捻ってみても、申し訳程度の水しか出ない。
二人で口々に「ないわー」と文句を言いあった。
とりあえずソファ席でお酒を飲み始めた。
すると、女友達がテーブルの下の収納にしまわれていたノートを見つけた。
宿泊者がメッセージを残すノートだ。
ラブホテルにメッセージを残す神経は理解できないが、読んで茶化す分にはおもしろい。
ノートを広げて、二人で読み始めた。
はじめは「○○くんとお泊まり」「~記念日」などのカップルのメッセージが続いた。だけど、だんだんと様子が変わってきた。「・・・本当に出た!」「マジこの部屋やばい」「お泊まり禁止!」「今なら間に合う。引き返せ」など心霊体験を臭わせるメッセージばかりになった。
「・・・なにこれ」ページをめくった女友達が息をのんだ。
ノートに赤黒くかすれた手形がついていた。
血を思わせる色だった。
メッセージも手形も全て誰かのイタズラかもしれないが気味が悪かった。
興味本位で、噂のある部屋に泊まったことを後悔しはじめていた。
恐怖心が、じわじわと湧いてきた。
女友達の表情を見ると、彼女も内心怖がっているのがわかった。
「盛り上がる音楽でもかけようか」なんとか明るい雰囲気にしようと、ベッドの上のパネルで洋楽のヒットチャートを流すことにした。
しかし、いくらパネルのスイッチをいじっても音楽は流れない。
こんな時に、壊れてるのだろうか。
「ねえ、女の人の声しない?」
とうとつに女友達が言い出した。
「隣だろ?」
「違う。この部屋の中から」
「まさか」
自分には聞こえなかった。
その時だった。
ピリリリリ!!!
携帯電話の着信音が聞こえてきた。
自分のスマホではない。
女友達の方を見ると、首を振っている。
でも、確かに音は部屋の中から聞こえている。
耳をすませて出所を探した。
着信音はベッドの下から鳴っていた。
腹這いになって、ベッドの下をのぞいた。
真っ暗だったので自分のスマホのライトで照らした。
光はベッドの下に行き届いた。
・・・だけど、携帯電話は見つからなかった。
音はまだ鳴っているのに、肝心の携帯電話はまったく見当たらない。
何もない空間から、音だけが鳴っていた。
「ない」
「ないって?」
「携帯電話なんてない」
「じゃあこの音は?」
「わからない。下の階かな・・・」
「やっぱり、おかしいよ、この部屋。もう出よ」
「そうだな」
俺達はゴミを片付けて帰ることにした。
「手洗ってくる」
女友達は、そう言って洗面所にいった。
俺は、ベッドに腰かけて、彼女が戻るのを待った。
早く部屋を出たくてそわそわした。
スマホをいじくって、何とか意識をそらそうとした。
少しすると、彼女が戻ってきた。
「帰ろう」
そう言ってスマホから彼女の方を見上げると、誰もいなかった・・・。
確かに視界のすみで、女性の人影が洗面所から出てきたのを見たのに。
「お待たせ」
ワンテンポ遅れて、洗面所から女友達が出てきた。
「どうかした?」
彼女は、呆然とする俺の様子をいぶかって聞いてきた。
「いや、今・・・」
説明しようと思った瞬間、
「きゃああああ!!」
女友達が叫び声を上げて、部屋から逃げ出していった。
俺は、慌てて後を追った。
女友達は、廊下でうずくまって震えていた。
「どうしたの?」
事情を聞くと、彼女は青白い顔をして言った。
・・・知らない女が、俺の背後に立っていたのだと。
俺達二人は、そのホテルを逃げるように後にした・・・。
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