思うに任せぬこの世なれども

自分の思い通りになる事などそうそうないとは知りながら、
これだけは譲れぬと思い定めるものがございます。

私は義母に対するPTSDがございます。
顔を合わせれば確実にショック症状を起こし病状の悪化を招きます。
どんな時であっても姿を見るのは避けなければなりません。

ですが、どうしても顔を見なければならない状況が二つあるのでございます。
まず一つ目は私より先に義母が亡くなった場合。
お分かりの通り、一報が入ればすぐに出向かなくてはならない事態です。

漢字であろうが平仮名であろうが文字がその名を示すだけで怯えるというのに、
命はなくとも顔を見ないわけには参りません。
奥の手として入院に近い緊急退避施設に駆け込む方法もなくはないのですが、
通夜葬儀を欠席するのは殆ど無理でございましょう。
今では主人に対してもPTSDの様相を呈しておりますので、
それも相まって私には非常に厳しい状況に置かれます。

もう一つは義母が生きているうちに、私より先に主人が先に逝った場合。
喪主の立場では奥の手も使いようがございません。
生きて喋る義母と相対して各所の手配などしなければならないのです。
精神的ダメージはその場ですぐに症状が現れる部分と、
深いところから徐々に浮き上がっていく部分がございます。
皮一枚が薄く覆っているだけの深手が血飛沫をあげるのは必至でしょう。

離婚して籍は他人となれましても、
田舎では顔も見せないような事は世間が許しません。

この二つから絶対に逃れる方法が一つだけ残されております。
それは、私が他の二人よりも先に黄泉路へ赴く事。
もうずっと、何年も前から考えてまいりました。

長女からの最近の情報によりますと、
義母は足腰が弱り、痴呆症的症状が見られるとの診断を受けている様子。
糖尿病の主人も新夜勤のある特別養護老人ホームの仕事で疲れ果て、
平日休暇にも内科へは行かずにいるそうです。

私よりも１日でも長く生きてもらわなければいけませんのに、
悩ましい事でございます。

「元気で長生きしてもらわないと」と申しますのは、
普通は幸せを願っての事ですのに、
私が口にする同じ言葉の意味は真逆な願いからだと思いますと笑ってしまいます。

ですが、私の心が寛解する前に先立つのだけは止めて頂きたいものです。