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Baby said 'OK'.

2012年10月18日 05:58

「OKだよ。」
Baby-Babyはハスキーな声で笑いながら言った。その時、すべては順調だった。波の上を風が走り、ボクらはその風の力を上手に操って、どこへでも行くことができた。まさに「自由の風」だった。

1991年、僕らはまだ不況が定着して不況が当たり前にはなっていない年に、デビューした。Baby-Baby-Babyという名のロックバンドだった。ボーカルギター栗原ことBaby-Baby、ベースorギターの僕、ドラム松本さんことdrummachine、当然メンバーが足りないので他はいつも友人やスカウトライブはやっていた。曲によっては、キーボの他にサックスフォンなんかが入ることもあった。曲作りは基本、栗原と僕。栗原はその頃ノリにノッていて、「自由の風」はインディーズで5000枚も売れた。地方ラジオではかなり流れていた。

「俺達ならどこだって行けるさ。自由の風の次にもう一度インディーズでヒットしたら、メジャーデビューできるってさ。」
「ほんとう?だれが言ってたんだい?。」
栗原はたまに洒落にならない冗談やヤバすぎる悪ふざけをする。大分前、「某有名なベーシスト」と組めるというホラを吹いて、1週間騙され続けた。drummachineがキレてしまって大変危険な状況になりかけた。裏をとらないといけないと。
「Kちゃんだよ。Kちゃんが頑張ってくれたみたい。」「なら…間違いないな。」Kちゃんは僕らの飲み友達で、メジャーレーベルの若手プロデューサーだった。
「…このまえみたいなことは勘弁な…。」
松本さんがタバコを吸いながら、もぐもぐ呟いた。松本さんは僕らより一回り上で、ミドルエイジってやつだ。
「心配ないっすよー。音楽には真摯っすから。OKですよ。」
どの口がどう動いたらこんなこと言えるのだろう?。Baby-Babyは自由だった。OKの発音がグッドだった。

僕らは青春の大半を音楽に、ロックに注いで生きてきた。Brucesprings teenや幾つかの日本のロックバンド神様だった。Baby-Babyとボクは中学時代にBrucesprings teenに出会った。Baby-Babyはその頃はまだ初な短小童貞野郎だったけど、音楽的なセンスは抜群で、僕はヤツに引っ張られて成長していった。
高校に入る頃には、僕らはすっかり落ちぶれた「劣等生」になっていた。Baby-Babyはタバコを吸い、酒を飲みながら学校に来て、寝て、女の子デートして、僕と曲をコピーしまくったり、作曲きどりをやってみたりしていた。
でも、僕はロックバンドで生きるなんてこれっぽっちも考えていなかった。Baby-Babyは彼らしくなく、そういう話の時、イライラした素振りを見せていた。ちなみに、もちろんBaby-Babyはその頃には「童貞」ではなくなっていた。

ある日、部室を珍しく使って、僕らは新曲の練習をした。秋の文化祭でお披露目することになっていた。
夜中「…帰るか?。」
Baby-Babyは言った。まぁお前がそう言わないと僕は帰れないんだけどな、僕は心のなかで抗議してみた。…もちろん無駄だった。

部室を出て真っ暗な帰り道、Baby-Babyはあの言葉を言った。顔は見えなかった。
「俺と自由にならないか?。」



栗原がこのままでは卒業できない。中山、お前栗原と仲良いんだろ?。ちょっと説得して、今日俺のところへ来るように言え。」
美術の教師Cが言った。肥満体のくそゴリラ…、Baby-Babyが名付け親だ。僕らは、学校の先生達を、教師AとかBとかと呼んでいた。
Baby-Baby曰く
青春の1ページ。」だそうだ。「青春の1ページ」という曲を、文化祭で僕らは演奏し、生徒からは喝采を、先生達からはブーイングの嵐を、保護者からはクレームを受けることになるのは、また後のことだった。

僕は非常階段から屋上に駆けていった。タバコのせいか息切れするようになっていた。空は青くて、グラウンドでは体育のサッカーが行われていた。
屋上に着いた。Baby-Babyは隅っこで日向ぼっこしながら寝ている。

栗原!教師Cが呼んでるぞ。お前卒業できんのかよ。」
「知らねぇー。興味ねぇもん。」
そう言ってタバコの煙をはいた。不機嫌なようだった。
「それよりさ。お前はどうするんだ?。」
栗原は質問に答えなかった。今思えば、答えは決まっていたんだろう。
「俺?」
「そー。お前。お前は自由になるのか?。」
栗原はほんとうに答えを求めているのがわかった。栗原は本気なときは本気なヤツだった。良い人間だったかはいまだに謎だが…。
「すまん。文化祭が終わってからじゃダメか?。俺、考えたこともないからさ。だから、もう一度音楽と自分に向き合いたいんだ。」
僕は話が下手だ。MCは栗原任せだった。でも栗原だけにはわかってもらいたかった。
「OKだ。」
「ところで、文化祭の曲なんだけどさー。ゴリラの歌をやろうぜ。」
タバコの煙がとても青く、空に溶けては消えていった。

僕はトリップしていた。意識が朦朧として、最高に気持ち良かった。僕は、僕らは、そこにいる人すべてと一体になっていた。汗だくになって身体中が燃え上がっていた。
「Baby、僕は自由になることにしたよ。」
栗原には多分聞こえてなかっただろうけど、僕は返事をした。

文化祭の後は大変だった。結局、ゴリラの歌こと「青春の1ページ」は学校の教師と保護者、要は大人達に中指を立てて、反抗的に青春を歌い上げる内容だったから、Baby-Babyは懸賞首兼英雄になった。
先生達はBaby-Babyを見放す気になっていたし、Baby-Babyはやめる気だったみたいだ。
だが、ゴリラの歌のもう一方の生みの親、教師Cはなぜか、Baby-Babyを擁護するようになった。Baby-Babyが無事卒業したのも教師Cこと「小林先生」のおかげだ。ちなみに「C」はこばやしの「し」だったと、後で知った。


なぁ…今思えば俺達はあの時、もう一度運命三叉路に立っていたんだな。

結局どこかに向かわなければらなくて、俺達には選択なんてできなかったんだ。

でもさ…最初の道は、俺達自身で選んだはずさ。


なぁ…そう思うだろう?
Baby-Baby?

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