- 名前
- ポメリー
- 性別
- ♀
- 年齢
- 52歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- ウラログでは、お酒のようにくらくらと心酔わせるお話を綴れたらいいなと思っています。 ...
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【お題日記】エッチな体験談を官能小説っぽく教えて!
2012年03月15日 00:29
『1/50』
規則的な波の音に混じって、水音が聴こえる。
私は瞳を閉じたまま、遠い意識で耳を澄ませる。
細やかな水滴が落ちる音。
きっとシャワーを浴びているのだろう。
片方の頬でシーツの感触を味わいながら、とろとろと微睡む。
気怠さがさっきまでの時間を物語っていた。
久しぶりの逢瀬。
もう少しこのままで…。
私はゆるゆると、この眠りに落ちきらない感覚に漂う。
やがてドアが音と共に開き、湿った熱を帯びた空気が私の肌を包む。
うつ伏せる私のすぐ側に、彼の重みを感じ私は薄く目を開ける。
温められた彼の肌。
きっとまだ水滴が沢山光っているはず。
だって、彼はいつもそうだから。
「ちゃんと身体、拭かないと。」
私は唇にシーツの感触を残したまま、彼に声をかける。
ああ、と適当な返事。
そして沈んでいたベッドから彼の重さが消えて、気配がソファーに移ったのを感じた。
煙草の薫りが、ゆっくりと流れてくる。
人工的に続く波音が、眠りへと手招きしている妖かしの女みたいだ。
「そろそろ時間、大丈夫かい?」
私は定まらない意識で頭を起こし、サイドテーブルの上に置いた携帯を手にして時間を確認した。
「そうね…もう、行かなきゃ。」
熱めのシャワーで、なかば強引に覚めきらぬ意識を現実へと引き戻す。
洗面所の壁に張られた横に長い鏡が冷えて曇りがとれるまで、私はタオルで髪の滴をはらう。
化粧水で潤う肌に、ファンデーションを乗せて、眉尻をペンシルで描き眉頭の粉ををブラシでぼかした。
口紅のケースを開けようとした時、彼が私の名前を呼んだ。
ちゃん付けの呼び方が、彼より私の方がずっと若いことを表していた。
紅筆の先をしならせて、色を取り唇へと塗り付ける。
ちょっとごわつくティッシュペーパーを折り畳んで、両唇に挟んでから、彼の元へ。
膝を大きく折り曲げなければならない藤のローソファに座る彼は、また新しい煙草に火を着けたばかりのようだった。
テーブルには二つのカップ。
どうぞと彼が手のひらで私に合図し、目を細めて小さく微笑った。
猫舌の私は、カップの縁から音がしないように細長い息を吹きかける。
カップの中の琥珀色が映した天井をふるふると揺らした。
コーヒーが苦手な私のために煎れてくれたフレーバーティー。
微かなオレンジの薫り。
大事なことは忘れちゃうくせに…。
小さなことは覚えているのね、と思ったら少し可笑しくなった。
白いカップの縁に、僅かに移る口紅。
ティッシュオフしてもまだカップにつく位の強い色。
幼い顔立ちを隠すためにと、彼に見合う大人になりたくてつけた緋色。
白い陶器の上で曖昧な輪郭をとる下唇の形を、私は親指でそっと消しながら彼に言う。
「ねぇ、今日後輩に聞いた話なんだけど。」
ん?という表情の彼を好きだと感じながら、私は続ける。
「女性はね、毎日口紅をつけて食事をすると、一生で50本の口紅を食べていることになるんですって。」
「それは面白い話だね。」
「でしょ?
そんなに食べたら、お腹の中が紅くなっちゃいそうよね。」
私の言葉に彼が声をあげて笑った。
「あはははは。
でも。
君の場合は少しだけ違っているかもしれないよ。」
彼が私を抱き上げて膝の上に乗せた。
私は彼の首に手を回す。
彼の手はバスローブの裾を潜り、奥へと滑るように捩じ込まれていく。
「………あぁっ」
私の唇が弱々しく呻くのを嬉しそうに眺める瞳。
ごつごつした手を動かしてゆく。
「だって、ほら。
お腹じゃなくて…ここが、紅くなっているじゃないか。」
慣れた指が紅い花芽を摘み、私は大きく息を吐き出しながら彼にしがみつく。
私の花は再び蜜を蓄え始め指に応える。
吐息に声が混じり始めた私を塞ぐように、彼が唇を重ねる。
「……んんんっ……っ」
鼻から抜ける高い声に被せるように、唇を少し離して彼は言った。
「僕は君の口紅の50本の内、何本くらいを食べているのだろうね。」
私は答えずに、唇を彼に押し付けて舌を泳がせ言葉を遮る。
そうね、多分…。
蕩ける花と別なところで、考えている私がいる。
このままいけば、1本分くらいにはなるかもしれないわね。
きつく瞑った目蓋の裏に、今まで口づけを交わした男たちが、浮かんでは消えていった。
全部のキスを集めたら、どのくらいになるのかしら?
私にとっては、そちらの本数の方が興味があった。
そんなことなどおそらく知らぬであろう彼が、今ここで与えてくれる悦びを貪りながら、私はもう一度啼いてみせた。
口紅、つけ直さなきゃ…。
このウラログへのコメント
ポメリーさんの口紅の少しだけでも消化したいですね。これから宜しくお願いします。
はじめまして
言葉の使い方、選び方
お上手ですね
香茶の香りの移った緋色艶めかしさが伝わります
薄紅色に輝く貴女の小さな真珠に
そっと口づけ
ついばみ
ころがすように
確かめてゆく
情事の後を主にした構成は官能の嵐を想像させます。素晴らしい…醒めた部分もちょっと切ないな
割切るか…
皆様、ありがとうございます。
きっと皆様方の記憶にも、そしてお腹にも(笑)それぞれの口紅が色鮮やかに残っていらっしゃることでしょう。
事実かどうかはご想像にお任せします。その方が楽しいでしょ?
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