午前3時、空中40m、窓二枚を隔てた50m向こうの情事

部屋が乾燥していたのか。夜中に目が覚めた。時計を見ると午前3時･･･ ベッドを降りて窓に歩み寄り、カーテンを開ける。昼間は車が列を成す片側2車線の道路の流れも絶え、ビルの屋上に立つ、上空を通過する航空機にその存在を知らしめるために赤く瞬く燈火ばかりが目に入る。世界有数の巨大都市、東京。そのホテルに泊まり仕事をしている私は、朝まで眠れなかったことにため息をつきながら、しばらく窓からの、ある意味幻想的な眺めを楽しんでいた。

　数分後、そろそろベッドに戻るか、と思いカーテンを閉じかけた瞬間、未だ灯りが点いていた目の前のオフィスビルのフロアに動く人影を見た。こんな時間に仕事? と驚いてそちらに目をやる。その人影が女のものであったことに私は更に驚いた。ジャケットは着ていないがビジネススーツ姿で、キャリアウーマンにありがちな肩までの髪。背後からの灯りで顔は見えないが、丁度今私がしているように窓際にもたれて外を眺める姿から判断して歳は30歳前後か。こんな時間まで良く働くな、と私は感心した。グレーのタイトなスカートに白いブラウス。道路を挟んで私の立つ窓との距離は50mほどか。私の姿は見えていないだろう。部屋の明かりは点けていない。

　その女の背後から男が近づいて来たので私は更に興味深くその二人を見守った。男は静かに女の背後に立つと、後ろから抱き締めた。女はさほど驚いた様子もなく、身を反らせて男に預け、腕を回して男の首を引き寄せた。その方向に顔を向け、接吻する二人。私は勿論、眠気など忘れて50m先、二枚の窓越しに展開される情事を見守った。

　(続く)