高倉健

正月、高倉健の映画をNHKBSで5本見た。みんな、若いときみたものばかりだが。
幸福の黄色いハンカチ、駅、居酒屋兆治、野生の証明、唐獅子牡丹、遙かな山の呼び声、

高倉健と言えば、オレの中では、やっぱ、網走番外地、だな。

高校のとき、ワクワク、うきうきしてみていた、

だから、その後の高倉健はどうしても、背後に網走番外地がある。

今回、30年ぶりに、ムカシの映画を見て、どうも、オレは高倉健を誤解していたようだ。
誤解ではないが、見方が狭かったようだ。

高倉健は石原裕次郎、中村錦之助、ま、萬屋錦之介だわな、勝新太郎とは、だいたい似たような年代だ。
三船は別格で10歳上だ。

裕次郎、中村錦之助、勝新は、日活、東映、大映、松竹東宝のビッグ5社を代表している。
彼らは20代で、も、輝くようなスターだった。

裕次郎なんて、美空ひばり、長嶋茂雄と同じ、戦後復興のの日本の象徴だ。
この3人に大衆日本は、明日に希望と夢を見た、
そして、この3人の中に、世界のミフネや勝新、小林旭がいた。

昭和30年代とは、戦後復興の明日の日本が、ミフネ、裕次郎、錦之助、勝新、ひばりが一身に背負っていた。

高倉健は、これら同世代の華々しい栄光から外れている。20代は鳴かず飛ばずだ。

高倉健がブレークしたのは、東映がチャンバラ路線からヤクザ路線になってからだ。
ヤクザ路線でブレークしたのは、高倉健と菅原文太だ。
菅原文太は高倉健より2歳下、ま、似たような年代だ、しかし、昭和30年代のあの栄光から外れてる。

チャンバラでブレークしなかったのは、高倉健の風貌がチャンバラに向かなかったのだろう。
そして、演技も下手の部類に入る。錦之助や大橋橋蔵のような蝶のような軽やかな舞うような動きは、彼は苦手だったのかもしれない。
ヤクザはそんな美しい無用な動きは必要ない。

彼の無骨な演技がチャンバラには不向きだった、歌もお世辞にもうまいとは言えない。

無骨なこと、演技が下手なことがヤクザ路線でブレークした。

ヤクザ映画では、威嚇、恫喝、すごみが命だ。
高倉健には威嚇、恫喝はないが、すごみ、この一点でだれより光っている。

演技ではどうしようもないのが、すごみ、人間としてのすごみ、だ。
演技を撥ね付ける、
本来、演技とはこのすごみに近づくための手段だ。

しかし、高倉健のばあい、演技が必要ない。演技を拒否することですごみが出る。
彼は、タダ、映画に集中するだけでよい。

他の役者は、凄みはだれも高倉健に及ばないことで、彼を崇拝するようになる。
そして、このすごみに、礼儀と謙遜が加われば、誰でも信者になってしまう。
高倉健信者は数え切れないほどいる。

高倉健があの、他の3人、昭和30年代の復興日本の象徴だった裕次郎、錦之助、勝新、
ミフネも入ろう、と違うところは、
彼らは20代で日本の太陽、スターだった。高倉健は遅れて30代でブレークした。

しかし、その後の歩みは違う。
栄光の3人は、戦後復興が終わって新しい段階に入ると同時に凋落していった。
映画の凋落とテレビの爆発だが。

日本映画が凋落しつつある中で、高倉健はヤクザ路線とは違うフィールドに出ている。

しかし、高倉健はヤクザ路線と一貫しているモノがある。

人間のすごみ、だ。

演技でないから、彼本来に宿っているモノだから、時代の潮流や時代の要請にそれほど左右されない。

フツー、エンターテーメントとは、世の中の流れ、時代の要請に媚びたり合わせたり、する。
ま、わかりやすく言えば、需要に供給を合わせるってコトだ。

高倉健にそれがないとは言わないが、そういうことが少ない。

裕次郎も錦之助も勝新も、ましてやミフネも、人間としてのすごみは、ある。
しかし、彼らは時代の寵児になってしまった、
人間のすごみ以上に、時代の寵児の秤が重くなってしまった。
わかりやすく言えば、
時代の寵児が人間のすごみを押しつぶしてしまった、
それだけ、彼らは戦後復興日本の社会現象だった。

高倉健は戦後復興日本の時代の寵児から免れた。

だから、生き延びれたと言ってよい。

美空ひばりだけが、戦後復興日本の時代の寵児から、押しつぶされなかった。

そして、ヤクザ路線から脱却した高倉健は、少しずつ、
演技とすごみがあんと皮のように美味く溶け出している。

はっきり言えば、
高倉健は、どんな役をやっても高倉健になってしまう、
高倉健は高倉健を演じてる。

これだけは、誰もマネができない。

だれも、映画を見に行くのでなく、高倉健を見に行く。


高倉健とは、古き良き日本人だ。


礼儀正しい日本人、

ギャハハハ