いつか会えるよね

「また、いつか会えるよね。きっと。」
ずっと、そう思い続けて、待ち続ける。

いつの間にか、時間が経っていく。。。
もう、6年か…。

あの時のことを、知っている人は、ほとんどいなくなった。



日曜日は、雨が降っていた。
駅ビルの本屋に行った。ずいぶんすいていた。
というより、駅ビル全体が、閑散としていた。

本を買い、帰ろうと思い、駅前の通りを歩いていた。

「あら、こんにちは」

俺は、声がした方を見た。
女性が傘をさして、立っていた。

「ひさしぶり。元気？」
俺は答えた。

スポーツクラブのインストラクターだ。
俺は、そのスポーツクラブを退会して、5年たつ。

「今でも、まだ働いてるの？」
俺は訊いた。

「そう、まだね」
とそのインストラクターは、寂しそうに笑った。


笑うと、目の中に、悲しみが浮かんでくる。
俺の顔を見ていると、思いだすのだと思う。



恋愛で、辛い別れというのは、どういうものか？


中学生のとき、友達が白血病になった。
半年間、入院したり退院したりしていた。
薬のおかげで、1か月間ぐらい、元気になった。

副作用で、髪の毛が抜け、かつらは、かぶっていたが…。

元気になった時、友達は、彼女と遊んだ。

ディズニーランドに行った。
花火を見に行った。

でも、1年後、亡くなってしまった。

彼女は、思い出も作れたし、覚悟もできていたと思う。
こういう別れ方は、悲しいが、良い方だとおもう。

もっと悪い別れ方もある。
もっと辛い別れ方がある。

彼が浮気した、彼女が浮気した。
そんな別れ方も大したことないと思う。



8年前。
俺は、体を鍛えていた、
スポーツクラブにも、ずいぶん通っていた。


スポーツクラブのロッカーの入口に、スタッフの写真が貼ってある。
2枚増えていた。
写真の横に名前が書いてある。

「○○さんか。かわいいな。」
俺は、思った。
新しく入ってきた、22歳の女性インストラクターだ。

ロッカーで着替え、ジムに行くと、その新人インストラクターがいた。
新人なので、ジムの入口に立ち、会員に挨拶をしていた。
「こんにちはー」
「お疲れ様でした。また、お待ちしていまーす」

会員が通るたびに、言っていた。

背は、かなり低い。140cmぐらいか…。


俺は、そのころ週に4回ぐらい通っていた。
当然、顔見知りの人も増えていき、何人かと話すようになった。

そのうちの、一人と、仲良くなった。Kさんという人だった。
会うと、ベンチプレスで、お互いに補助して、トレーニングをした。

でも、Kさんとスポーツクラブ以外で、会うことはなかった。
電話番号、メアド交換もしていなかった。

Kさんに、
「○○さん、かわいくない？」
と言われた。

俺は、
「かわいいよね。話しかけてみようか。」
と言って話した。

それ以来、新人インストラクター、Kさん、俺の3人でよく話していた。

2年後。

3月にKさんが、
「俺、6月に辞めると思う」
と話したとき、明らかに、そのインストラクターは、動揺していた。
悲しそうな顔をしていた。

「なんで、辞めるんですか？」
そのインストラクターは、訊いた。

Kさんは、「引っ越しもあるし。」
と答える。

「いつ、引っ越すんですか？」
そのインストラクターは、まだ、食いついていく。
辞めないで欲しい、そんな気持ちが、俺にも伝わってくる。

「9月ごろだけど。俺、会員費を一括で払っていて、6月に更新なんだ。だから、そこで辞めようと思って。」

そのインストラクターは、すごく悲しい顔をしていた。
泣きそうな顔をしていた。

そのインストラクターは、言った。
「1か月ごとに会費を払うこともできるし、9月まで、いたらいいんじゃないですか？」

Kさんは、寂しそうに笑って、何も言わなかった。


Kさんが、辞める理由は、引っ越しではない。
原因は、そのインストラクターが軽い気持ちで、言ったこと。
何も考えずに、言ってしまったこと。

もう無理だ。
退会するしかない…。
それが、大人のルールだ。

Kさんが自主的に退会しなければ、退会させられるだけだ。

(長くなったので、続きは次回書きます)