- 名前
- 松田文学男爵
- 性別
- ♂
- 年齢
- 60歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- 君はきっと、 僕のことが好きなんだろう。 そんな君を前にすると、僕も君のことが好きな...
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ご近所に住むおばあさんのはなし
2018年11月19日 20:56
ご近所に住むおばあさんのはなし。
嫁いびりの限りをつくしたおばあさんのところから、同居した長男嫁も二男嫁も逃げ出していった。
おばあさんは嫁に罵詈雑言を尽くし、手まであげていたのだという。
やがておじいさんが亡くなった。
偏屈な性格と毒舌のため親しい友人もなく寂しかったおばあさんは、捨て犬を拾って静かに暮らしていた。
やがて足腰が弱っていくおばあさんだが、壮絶な嫁いびりをしたむくいで、誰も引き取り手がない。
もはや一人暮らしはむずかしかろうということで、施設の入所が決まった。
おばあさんの唯一の友であり、血を分けた我が子よりも可愛い犬は、行き場がない。
誰か犬を飼ってくれる人はないかと探すが、もともと近隣との関係も悪くつきあいも少ない。
犬は雑種で老いていて、お世辞にも可愛らしいとは言い難い。
おばあさんは犬を保健所に連れて行き処分してもらおうと決めた。
「無力な婆を許して」「おまえと一緒にわたしも死にたい」
別れが辛くて犬を抱えておばあさんが途方にくれていたところに、
むかしさんざんいじめた二男嫁がやってきたそうだ。
「犬の引取先をさがしてきました」と二男嫁。
「いろいろありましたから、お義母さんのためになにかしてあげようとは思っていません。つきあいもするつもりはありませんから、今後も何も期待してもらってはこまります。でも、犬には罪はありません。大事な命ですから」
気の強いおばあさんは、おいおいと泣きくずれた。
そして二男嫁に心の底からのお礼を言い、非礼を詫びるために頭を深々と下げた。
「ありがとう。もうなにも思い残すことはない」
おばあさんは、晴れ晴れとした顔で施設にうつっていった。
おばあさんには金輪際もう関わらない、葬式にも出ないと言っていた二男嫁だが
「近所に用事があったから寄っただけ」とか口実を作っては、2週間に一度くらいは顔を出す。
「お口に合わなかったら捨てて」とかぼそぼそと言いながら、二男嫁はおばあさんのまくらもとに、手作りのおまんじゅうとか、ちょっとしたお惣菜などを置いていくそうだ。
「大嫌いな姑だけれど、犬に対する愛情を見ていたら、姑にも人間らしい心があったんだとわかった。一生許さないと思っていた人だけれど、あのときの自分に対する仕打ちも、いつかは赦せそうな気がする。わたしもそういう年齢になったのね」
と二男嫁は笑っていた。
おばあさんの元には、犬の新しい飼い主から季節のお見舞いのはがきが来る。
いつも犬の写真がプリントされていて老犬は家族に大事にされ、幸せそうな顔をしているそうだ。
おばあさんは、犬の写真を大事に枕元に飾っている。
おばあさんは少しだけ穏和になり、施設では友達も少しずつできた。
「わたしの人生の中で、今がいちばんいい時期だ」と、そう話している。
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