- 名前
- ぱすかる
- 性別
- ♂
- 年齢
- 73歳
- 住所
- 福島
- 自己紹介
- おまんこは神の秘術
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峠三吉
2017年06月13日 09:02
+目次
[#ページの左右中央]
――一九四五年八月六日、広島に、九日、長崎に投下された原子爆弾によって命を奪われた人、また現在にいたるまで死の恐怖と苦痛にさいなまれつつある人、そして生きている限り憂悶と悲しみを消すよしもない人、さらに全世界の原子爆弾を憎悪する人々に捧ぐ。
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序
ちちをかえせ ははをかえせ
としよりをかえせ
こどもをかえせ
わたしをかえせ わたしにつながる
にんげんをかえせ
にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ
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八月六日
あの閃光が忘れえようか
瞬時に街頭の三万は消え
圧おしつぶされた暗闇の底で
五万の悲鳴は絶え
渦巻くきいろい煙がうすれると
ビルディングは裂さけ、橋は崩くずれ
満員電車はそのまま焦こげ
涯しない瓦礫がれきと燃えさしの堆積たいせきであった広島
やがてボロ切れのような皮膚を垂れた
両手を胸に
くずれた脳漿のうしょうを踏み
焼け焦こげた布を腰にまとって
泣きながら群れ歩いた裸体の行列
石地蔵のように散乱した練兵場の屍体
つながれた筏いかだへ這はいより折り重った河岸の群も
灼やけつく日ざしの下でしだいに屍体とかわり
夕空をつく火光かこうの中に
下敷きのまま生きていた母や弟の町のあたりも
焼けうつり
兵器廠へいきしょうの床の糞尿ふんにょうのうえに
のがれ横たわった女学生らの
太鼓腹の、片眼つぶれの、半身あかむけの、丸坊主の
誰がたれとも分らぬ一群の上に朝日がさせば
すでに動くものもなく
異臭いしゅうのよどんだなかで
金かなダライにとぶ蠅の羽音だけ
三十万の全市をしめた
あの静寂が忘れえようか
そのしずけさの中で
帰らなかった妻や子のしろい眼窩がんかが
俺たちの心魂をたち割って
込めたねがいを
忘れえようか!
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死
!
泣き叫ぶ耳の奥の声
音もなく膨ふくれあがり
とびかかってきた
烈しい異状さの空間
たち罩こめた塵煙じんえんの
きなくさいはためきの間を
走り狂う影
〈あ
にげら
れる〉
はね起きる腰から
崩れ散る煉瓦屑の
からだが
燃えている
背中から突き倒した
熱風が
袖で肩で
火になって
煙のなかにつかむ
水槽のコンクリー角
水の中に
もう頭
水をかける衣服が
焦こげ散って
ない
電線材木釘硝子片
波打つ瓦の壁
爪が燃え
踵かかとがとれ
せなかに貼はりついた鉛の溶鈑ようばん
〈う・う・う・う〉
すでに火
くろく
電柱も壁土も
われた頭に噴ふきこむ
火と煙
の渦
〈ヒロちゃん ヒロちゃん〉
抑える乳が
あ 血綿けつめんの穴
倒れたまま
――おまえおまえおまえはどこ
腹這いいざる煙の中に
どこから現れたか
手と手をつなぎ
盆踊りのぐるぐる廻りをつづける
裸のむすめたち
つまずき仆たおれる環の
瓦の下から
またも肩
髪のない老婆の
熱気にあぶり出され
のたうつ癇高かんだかいさけび
もうゆれる炎の道ばた
タイコの腹をふくらせ
唇までめくれた
あかい肉塊たち
足首をつかむ
ずるりと剥むけた手
ころがった眼で叫ぶ
白く煮えた首
手で踏んだ毛髪、脳漿のうしょう
むしこめる煙、ぶっつかる火の風
はじける火の粉の闇で
金いろの子供の瞳
燃える体
灼やける咽喉のど
どっと崩折くずおれて
腕
めりこんで
肩
おお もう
すすめぬ
暗いひとりの底
こめかみの轟音が急に遠のき
ああ
どうしたこと
どうしてわたしは
道ばたのこんなところで
おまえからもはなれ
し、死な
ねば
な
らぬ
か
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炎
衝つき当った天蓋てんがいの
まくれ拡がった死被しひの
垂れこめた雲の
薄闇の地上から
煙をはねのけ
歯がみし
おどりあがり
合体して
黒い あかい 蒼あおい炎は
煌きらめく火の粉を吹き散らしながら
いまや全市のうえに
立ちあがった。
藻ものように ゆれゆれ
つきすすむ炎の群列。
屠殺場とさつじょうへ曳ひかれていた牛の群は
河岸をなだれ墜おち
灰いろの鳩が一羽
羽根をちぢめて橋のうえにころがる。
ぴょこ ぴょこ
噴煙のしたから這い出て
火にのまれゆくのは
四足の
無数の人間。
噴き崩れた余燼よじんのかさなりに
髪をかきむしったまま
硬直こうちょくした
呪いが燻くすぶる
濃縮のうしゅくされ
爆発した時間のあと
灼熱しゃくねつの憎悪だけが
ばくばくと拡がって。
空間に堆積たいせきする
無韻むいんの沈黙
太陽をおしのけた
ウラニューム熱線は
処女の背肉に
羅衣うすぎぬの花模様を焼きつけ
司祭の黒衣を
瞬間 燃えあがらせ
1945, Aug. 6
まひるの中の真夜
人間が神に加えた
たしかな火刑。
この一夜
ひろしまの火光は
人類の寝床に映り
歴史はやがて
すべての神に似るものを
待ち伏せる。
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盲目
河岸におしつぶされた
産院の堆積たいせきの底から
妻に付き添っていた男ら
手脚をひきずり
石崖の伝馬てんまにあつまる
胸から顔を硝子片に襲われたくら闇のなか
干潟ひがたの伝馬は火の粉にぬりこめられ
熱に追われた盲めしい
河原に降りてよろめき
よろめく脚を
泥土に奪われ
仆たおれた群に
寂漠せきばくとひろしまは燃え
燃えくずれ
はや くれ方のみち汐しお
河原に汐はよせ
汐は満ち
手が浸り脚が浸り
むすうの傷穴から海水がしみ入りつつ
動かぬものら
顫ふるえる意識の暗黒で
喪うしなわれたものをまさぐる神経が
閃光の爆幕に突きあたり
もう一度
燃尽しょうじんする
巨大な崩壊を潜くぐりこえた本能が
手脚の浮動にちぎれ
河中に転落する黒焦くろこげの梁木はりぎに
ゆらめく生の残像
(嬰児えいじと共の 妻のほほえみ
透明な産室の 窓ぎわの朝餉あさげ)
そして
硝子にえぐられた双眼が
血膿ちうみと泥と
雲煙の裂け間
山上の
暮映ぼえいを溜ため
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仮繃帯所にて
このウラログへのコメント
これはね、、、
悲惨を通り越してるよね。
こんな中で生き残るのも、さらに悲惨を通り越す。
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