また会おうね

毎朝、女は歩いていた。


僕は、それに付き合うようになった。



朝の空気は気持ちいい。

花も昨日は咲いてなかったのに、今開き始めたとか


夜のうちに降っていた雨が、ピタリと止んで朝日が見えたりとか


普段あまり見ないものを、たくさん見られた。



最近はガムを買ってくれなくなったけど、代わりにササミの乾き物を買ってくれるようになったし

ガムよりも美味しいから、満足だった。




サボっていた歯磨きも、女がやってくれた。


最初は慣れなかったから、何度も嫌がったけど

終わると嬉しそうに女が笑うから、僕も嬉しくなった。




そして、その年の冬はすごく寒かった。


僕は毎日、女が帰ってくるのを待った。


でも、最近は帰ってきても僕に教えてくれなくなった。


黙って帰ってきて、黙ってお風呂に入って


寝る時間にそっと僕を起こして、一緒のお布団に入るようになった。


お父さんもお母さんも、僕に話しかけなくなった。


僕が話しかけると普通だけど

みんなからは声をかけてくれなくなった。



いつもあ～だこ～だ喚いてる、テレビってやつも

何も言わなくなった。



お父さんか乗る車も、女が乗るお兄ちゃんの車も

何もしゃべらなくなった。



おかげで静かな毎日だけど、僕の話してる言葉も

僕には聞こえなくなった。





ある日、朝起きたら世界が真っ白だった。


目の前に女がいるのは、匂いでわかるけど


白い景色は、どれだけ動いても場所を変えても


白いままだった。



きっと、毎日白い何かが飛んできてるんだろうな。


僕はこれくらいで動じたりしないから、何も気にしなかった。




お散歩のたびに、誰かしら僕にくっついて歩くようになった。


今までは僕が気ままに先頭を歩いていたのに

お父さんだったり、お母さんだったり


常に身体のどこかを僕にピッタリくっつけてくる。



嬉しいけど、歩きづらい。



だから、たまに広場で走り回れるのは

僕にとって最高に楽しい時間だった。





2015年1月、お正月を迎えた。


お父さんとお母さんが、たくさんご馳走をお茶碗に盛ってくれた。


いつも少し残して食べる僕だけど、今日は全部たいらげた。


食べてる間、みんな僕から離れなかった。


2月


去年よりも寒く感じた。

女は帰ってくると僕をすぐに起こし、お布団で一緒に温まってくれた。

しばらくするとお風呂に入りに行き

終わるとすぐにお布団の中に戻ってきて、僕を優しく抱きしめた。


意外にこの女は温かい。

朝まで起きることなく、毎日を温かく過ごした。


2月14日


「バレンタインデーだよ」と言って、大好きなササミの乾き物をくれた。


小さくちぎってくれたので、食べやすかった。


お腹いっぱいになったから、今日はご飯が食べられなかった。




2月16日、朝から身体が辛かった。


起き上がるのも面倒で、起こそうとする女を無視して

僕はそのまま、お兄ちゃんの布団で眠った。

女が会社から帰ってきても、横になっていた。


起き上がるのも面倒だし、布団の外は寒いし

何より、目を閉じるとお兄ちゃんがそこにいた。


「大丈夫？」と、何度もお母さんが僕に声をかけてきたのが

僕をなでる手でわかった。


なでられるたびに僕は目を開け、少しだけ答えて

また目をつぶった。


お父さんが抱っこしてくれた。

女が僕に頬ずりをした。


お母さんは、ずっと僕に毛布をかけて包んでくれた。


でも、だんだん息をするのが辛くなってきた。


起きようとしても、身体が言うことを聞かないんだ。


咳もたくさん出るし、何よりもすごく眠い。


ああ、これで僕もお兄ちゃんと妹のところに行くんだろうな。


ちゃんと待っていてくれるかな

もしかして、迎えに来てくれるかもな


それなら、みんなにお別れを言わなくちゃ。



僕は、みんなにお別れを言った。


一言だけ「ワン」って。



そして、ゆっくり目を閉じた。


もう眠いし、お兄ちゃんに会えるんだ。


じゃあね、みんな。


先にお兄ちゃんと妹と、一緒に遊んで待ってるね。



お父さん
毎日お散歩に行ってくれてありがとう。


お母さん
毎日美味しいご飯とお菓子をありがとう。


おい、女
先にお兄ちゃんと妹と待ってるからな。





僕の名前はジョン。

家族が僕にくれた、最高の名前だ。









2月に亡くなった、彼が飼い始めた愛犬の気持ちを
私が勝手に代弁して、日記を書いてみました。

天国で妹ベリーと一緒に
最愛の彼と仲良く過ごしていることだろうと思っています。




掲載元
http://www.0351pet.com/photos/meinvquantupian_26.html