手紙

遠くへ行ってしまった貴女へ


あの旅行からもう一年やね。早いと思うよ。貴女と過ごした二日間、本当に夢のようやった。

来年の桜は一緒に見れない、との言葉通り、貴女は本当に逝ってしまった。

わしはどうして良いのか分からず、苦しみ、悼み、嘆いたけど、それで貴女が還って来る訳では勿論ない。


先日、道端に生える土筆を見て、貴女を思い出した。去年、同じように土筆を見つけ、貴女に写メを送り、それに返信をくれたよね。あの時は、数日後に迫った旅行のことでお互い気持ちが昂ぶっていた。幸せやったね。


わしの町でももうすぐ桜が咲くよ。二人で訪ねた山間のリゾート、桜が咲いとったね。淡い香りを二人で楽しんだ。


貴女に言われて、実行できてないことがある。心苦しいよ。奥さんを大切にしてあげて、と言われた。貴女にしてみればわしの家庭を思いやってのことやったろうけど、これを実行できている自信はない。

女房はやりたいことを見つけて、努力しているよ。それで朗らかになったと思う。わしは出来る支援をしているつもりやけどね。


貴女の眼。手の感触。肌触り。


わしは良く思い出しては、もう触れることが出来ないそれらのものに、手を伸ばし、指先に蘇らせようと試みる。


わしは、貴女にまた会えるんやろうか。


わしがこの世の生を終え、三途の川を渡る時、貴女は迎えに来てくれるやろうか。

それとも、その頃には改心したご主人が貴女を全面的に幸せにしていて、わしなど不要になっとうやろうか。


人に霊魂があるなら、また貴女に会って話がしたいよ。


わしはこの世でまだやることがあるから、今ではないけれど。


今年は貴女のお墓を見つけて、是非墓参りしたい。

貴女の花の好みもわしは知らんなぁ。


適当に、わしのイメージで花は選ばせてもらうね。




安らかに眠ってください。また会いに行きます。


ベソ