- 名前
- ベソ
- 性別
- ♂
- 年齢
- 64歳
- 住所
- 海外
- 自己紹介
- 我ハ墓守也。
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顔
2010年03月21日 23:35
学生時代には色々なアルバイトをやった。その一つに、お歳暮配達がある。町の大手百貨店の贈答品の配送を請け負っている運送会社は毎年12月に大量の大学生を雇う。わしは無料アルバイト紹介誌を見て申し込み、面接を経て採用された。
形態としてはこの運送会社でフルタイムで働くプロの配送員一人につき、数名のアルバイトを割り当てる。わしの面倒を見てくれることになったのは、60代の気のいいおっちゃん。いつもニコニコ、恵比寿様のような笑顔で事実、皆から「おっちゃん」と呼ばれていた。
「おっちゃん」の家庭は奥様が切り盛りし、娘二人が手伝う形で喫茶店を経営しており、日毎の準備はこの喫茶店で行った。
「準備」といっても何? と皆様は思われるでしょう。お歳暮配達の準備とは…
最盛期のお歳暮配達員の負荷は高く、アルバイトも含め配達員一名当たり毎日数百の荷物を届けなければいけない。受け持ちの区域が決まっており、その区域内に届ける荷物すべてを運ぶ…といってもランダムにトラックに積み、ランダムに届けていたのでは仕事は終わらない。
一日の仕事が終わると、運送所へ戻り翌日に届ける荷物をトラックに積む。この際、伝票を元に配達の順序を決め、ルートの最初の荷物を最後に積むように考え搭載を行うことになる。
トラックは軽トラ。この時期に合わせ運送会社がやはり多量にリースする軽トラを、アルバイト配送員に一人一台割り当てる。一月間、軽トラは各配送員の愛車となり、仕事が終われば乗って帰り、翌日はそれで出勤する生活を送る。
車庫? そんなもんありまへんがな。路駐が原則。考えてみればおおらかというかいい加減な話やけど、当時は誰も問題にしなかった。警察も大目に見てくれた、ということでしょう。
で、運送会社で翌日の荷物を積んだ軽トラを運転して「おっちゃん」の喫茶店へ行き、夜中までかかり翌日のルートを「ゼンリン」の地図帳で確認する作業を行った。これを怠ると翌日仕事にならない。
「おっちゃん」にはアルバイトが4人付いた。いずれも、その年のアルバイトの中から履歴書等で「おっちゃん」が選んだらしい。どういう理由で「おっちゃん」がわしを選んでくれたかは聞かなかった。
一番忙しい時期、12月10日から一週間ほどは、配達を終え運送会社へ戻るのが午後9時、それから荷物を積み込んで11時、「おっちゃん」の喫茶店でルート確認を終えて下宿へ戻るのが午前2時…という生活。すぐに寝て翌朝7時には配送所へ出勤。
忙しいでしょ?
しかし負荷はやがて徐々に下がり、クリスマスを過ぎる頃には夕方には配送を終え遅くない時間に下宿に戻れるようになる。仕事を覚えて時間効率が上がったお陰も勿論あるけれど。
で、ひと月で数千の家庭の玄関先をのぞく、という貴重な体験をさせていただいた訳ですよ。
容易に想像がつくように、お歳暮の配達先というのはある程度偏在しています。つまり、もらう家庭は大量の贈答品を受け取る。医師、弁護士等の家庭ですな。わしの受け持ち地区にも数軒、そのような家があった。
配達員には涙が出るほど有難い存在。だって、一度車を停めるだけで多い時には十程の荷物が捌けるんですから。大きな時間プレッシャー下にある配達員にこれは嬉しいですよ。
しかしそういった家庭は例外で、大多数はシーズン通じて数個、あるいは一個のみ、といったお届け具合。
「タカシマヤで~す、お歳暮お届けにあがりました~、印鑑お願いしま~す」
と大声で叫び、早よ出て来てくれ~、と願う。
ガチャ、と門を開けて敷地に入り、ドアベルを押し、口上を叫び、家人が応答してくれるのを待つ。
やがて、ドアが開けられ、荷物を渡して伝票に印鑑を押してもらう。
その一連の行為の後、わしは爽やかに
「ありがとうございました~」
と礼を述べながら颯爽と走り去る。軽トラで。
そして、これを繰り返していると、気づくことがある。
どの家にも、「顔」がある、ということ。
その「顔」とは、「表情」と言い換えても良いし、「趣き」と呼んでも良いかも知れない。
門を含めた家の外観。
玄関の風情。
ドアが開けられてからチラリと見えるうちの中。
匂い。
光。
風。
そして、対応してくれる人の表情、服装、動作。
何千回も繰り返すと、やはり感じるものがある訳ですよ。
配達なんて、その人の無防備な瞬間を、それも自宅にお邪魔して目撃する訳ですからね。素顔を隠せないとはこのことです。
「顔」。
一番報われた気になるのは、やはり幸せそうな、満ち足りていそうな家庭。
お母さんの後ろに隠れて子供が出て来て、興味深そうにこちらを見ていたり。
お母さんがエプロン姿で、食事の準備時で美味しそうな匂いがしたりするとああ、この家庭は順調なんだな、と若くてアホ丸出しのわしでも感じました。
喩えて言えば、こうした家庭の「顔」は、ニコニコ笑っている印象。
対照的に、ドアを開けることを頑なに拒否する家庭もありました。
ドアの向こうから怒鳴るように、「そこ置いといて」と言われても困る訳です。
伝票に印鑑をもらわないと配達の証明が出来ません。
「お願いします、印鑑をもらえませんか」と何度も懇願しても効果なし。
「あんたサインしといて」
とか言われる訳です。
本当に困ります。
異様な時間プレッシャー下にあるわしは、悩みつつも荷物を置き、伝票に自分でサインして届けたことにしました。幸い、後で問題になったりはしませんでしたが後味が悪いことは当然です。
数としては少数でしたが、そうした家庭には暗い、日の差さない印象が残る。喩えるなら、般若の面のような「顔」。
わしの経験から言わせてもらうと、玄関先の印象、大切です。その家庭の内実が、驚くほど赤裸々に現れる。
整理整頓。掃除の行き届き具合。飾りつけ。照明。匂い。
シーズンが終わる頃には、玄関を除くだけで、その家庭の某かが分かるようになった気がしました。
そう、玄関には「顔」があるのです。
振り返って考えてみると、今のわしの自宅玄関。
どういう「顔」をしているやろか?
ネットショッピングをよく利用するわし。宅配便の配達を良く受けます。
届けてくれるのは、当然プロの配達員さん。
ゆめゆめぞんざいな対応はしていないつもりですが、果たして。
そしてプロの目から見た、我が家の玄関の「顔」は如何に…
学生時代の経験を思い出したこの機会に、再点検をしてみよう。
少なくとも、明るい、機能している家庭のイメージを持ってもらえるだろうか…
帰宅した子供たちが、ニコニコ笑っているおうちの「顔」を感じてくれれば理想。
貴女のうちの玄関、どんな「顔」をしていますか?
このウラログへのコメント
必ず「ご苦労様」って言います!
常に逆の立場になって行動するようにしてます
なるほど~。興味深い日記です。
自分の顔だけじゃなくてお家の顔も気にかけて過ごさなきゃ。
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