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幻の雲で会えたら・・・3

2009年09月25日 15:15

幻の雲で会えたら・・・3

あと数歩。あと少しで雲に着く。期待と興奮で胸がドキドキする。
汗が吹き出してきて、額の汗をぬぐう。

 瞬きをした次の瞬間、右腕がしびれていることに気づいた。
 気づくとソファーの上だった。そのまま寝てしまっていたらしい。
 私は、慌てて飛び起きる。
 雲は?あと少しで雲に着くのに。
 慌てて窓の外を見ると、はしごは見えなくて、ただぽかんと
まだそこに、雲は浮かんでいた。
空が明るい。夢だったのかな・・・。

 仕事に行かなきゃ。時計の針は朝の八時を指していた。
 一体何なのよ。もう少しで、あとほんの数歩で雲の中に
入れたのに。
 まるで私自身も体だけが現実に引き戻されて、心だけはそっくり
丸ごと雲の上に置いてきちゃったように、変な感覚。
 仕事に行かなきゃ、と慌てて身支度してるのに、
仕事をこなすほうにスイッチが切り替えられそうに、ない。

 その日一日、私は仕事をしながら途中でぼけっとしていたり、
大切な書類を作っていてもまるで集中出来なかった。
 時間が経つのが、そんな時はとても遅い。
やっと夕方になるまで、まるで私は数日かかったように
疲れ果てていた。

 早くあの雲に行かなきゃ。あのはしごはいつ頃、かかるのだろう。
 多分、真夜中。月が昇る頃。
 私が眠りに落ちた頃。
 だけどもし雲がもう消えていたらどうしよう?

 仕事が終わると、同僚の食事の誘いも断り、私は早々に帰宅した。
 そして、窓からフワフワ雲を探す。
 あった。まだ浮いている。
 同じ大きさ、同じ距離。昨日と同じように、たたずんでいる。
 ちょっと私は落ち着いて来た。
 きっと明日も、あさってもそこに在るに違いない。
 もし仮に消えてしまっても、最初からなかったことと思えばいい。
 へんてこな、雲。

 夜中、私はカーテンを開けっぱなしにしておいた窓の向こうの
雲を見るけれど、まだはしごはかかっていなかった。
 もしかしたら、眠らないとはしごに乗れないのかな?
 昨日のはしごのことも、もしかしたら夢かもしれない。
 気づくとソファーに寝ていたんだし。
 けれど、どこか確信があった。はしごに乗った時の感触。
 吹いてきたなまぬるい風、下を見下ろした景色。
 間違いない。きっと私はあの雲の中に入ることになるわ。
 ドキドキするような、確信が胸にあった。

 ソファーでまどろむ。昨日も、こんなふうに。煙草を吸ったり
消したり、繰り返してるうちに眠くなってくる。そうしたらきっと
雲に行ける。

 気づくと、私はもう雲まであと数歩、というはしごの上まで
来ていた。早く、早く進まなきゃ。けれど足が動かない。
 手を伸ばしてぎりぎりで届くか届かないかの距離に、フワフワ
雲の端がある。

 あれ?ちょっと待ってよ。進まなきゃ困るのよ。朝になったら
困るんだってば。
 焦ってみるけれど、はしごの上で私の体はぴくりとも動いて
くれなかった。異常に体が重い気がする。

 目の前に浮いている雲をじっと見る。
四つ這いになってる両手を思い切り伸ばしたら、ぎりぎりで
届きそうなのに・・・。

 戻るしかないのかな。やっぱり乗れないのかな。
私、ずっと雲をみつめる。フワフワしたその先に、何か
見える。虹みたいな色を放って、その奥に何か・・・。

「ねぇ、お願い。もう少しなんだから・・・」
 泣きそうになって私は、懇願する。
 誰に向かって言ってるのかもわかんない。
 けれどこんな興味しんしんのものが目の前に現れたら、もう
行って見たくてたまらないじゃない。
 雲に向かって頼んでいた私の目の前で、フワフワしたその奥の
何かは、ちょっと眩しく光った。

 答えてくれてる? 通じた?
 私、また繰り返す。
「お願い。はしごがあるってことは、私を招いたんでしょ?」

声がした? 

「まだ、だめだよ。君はまだ来れないよ。」
 心に、焼き付けるように響いてくる。
 なんだか説得力のある言い方・・・。

 耳を澄ませて黙り込む。私の体はまだ
動かない。ずっとはしごの上でじっと止まったまま。

 瞬きする。なんだかとても体が重くて眠い・・・。


 また、朝になってしまった。雲まであと少しだったのに。
 そういえば声が聞こえた。
 まだだめ。君はまだ来られない。

 どういうことなんだろう。じゃあなぜ、私の窓にはしごがかけられて
いるの?

 その日も、私の仕事の能率は最低だった。
 普段なら人の倍のスピードでやっつけちゃうのが私の目標だし、
しゃかりきになって山積みの仕事をこなしているのに。
 目の前のパソコンに向かって何度も同じ文字の打ち間違いを直す。
 変換、変換、変換。デリートーキーを何度も打ち続け。
 それでもなんとか少しは冷静を保って、仕事を終えた。

 その日の夜も、私は雲へのはしごの上に行った。
 まどろんでいるうちに気づくとはしごの上にいる。
 月明かりに照らされて、雲は相変わらず不思議な虹色に
輝いている。今日こそは、行けるかな。
 必ず、行ってみせる。手に思い切り、力入れて。足を
思い切り、ふんばって、一歩一歩。だってあと少しのところ
なんだもの。

 けれど、その日も駄目だった。体は、はしごを、あと三段
目の前にして、まるで動かなくて、私は悔しくてちょっぴり
涙ぐんだ。つい雲に向かって愚痴ったりする。

「ひどいよ。あと少しのとこなのに。なんでそんなに意地悪なの?」
「まだまだ。君はまだ来れないよ。」

 フワフワした雲の奥から声がした。
 落ち着き払ったような。からかってるような。
 けれどどこか、とても安心する声・・・。

 また朝になって会社に行く。ぼけっとこなしていたら到底
追いつく仕事の量じゃない。そろそろ、私は、落ち着いて仕事にも
本腰入れられるようになって来た。
 そう、まず目の前にあるコレをやっつけちゃおう。そんな感じで
がむしゃらにパソコンと向かい合う。

 次の夜も、次の次の夜も、私は雲に向かっていった。
 こうなったらもう意地しかないみたいで。
 ただ、ひたすら雲に向かう。幸い、そんな時にはかまってくれない
彼に電話することもしなかったし、彼からもかかって来なかった。
 そういえば彼のことすら忘れているに近い程、フワフワ雲ばかりが
頭の中を占めてる。

 けれどまだ、はしごの数段残して私は空の上ではしごにしがみついた
まま情けなく固まっていた。

「ひどいよぅ。まだ駄目なの?」

 雲の奥からは口調はちょっと違うけれど、いつも同じ事を言われる。

「まだだよ。あと少しだけどまだまだ。」

 ちょっと進展?
 この間よりあと少しなの?
 それとも、最初から、あと少しのまま三段を進めないの?

----------------------------禁無断転載・引用/著作権は著者(c)office-miraiに帰属します。----------------------------

このウラログへのコメント

  • ウィング 2009年09月26日 00:31

    どう想像するのがいいのでしょうか?やっぱりHな方を考えてしまう僕が居ます。お手伝いしましょう(笑)

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