幻の雲で会えたら・・・2

雲？　雲ならわかる。それは、雲のようでいて雲ではなかった。

だって、あまりに近いんだもの。雲ならもっと遠くにあるはずなのに、
その雲らしきものは、窓のすぐそばにぽかりと浮かんでいた。


　一瞬、私は両手に抱えた洗濯物をぽたりと落として、目をこすった。

　そしてもう一度窓のほうを見る。
　横幅は二メーターくらい。高さは一メーターくらいの雲みたいな楕円形の
ほんわかしたもの。
　どうみても限りなく雲にそっくりなそれは、窓から手を伸ばしたら
届いちゃうんじゃないかって程、近くにあった。

　思わず窓のそばに駆け寄る。
　じーっと眺めてみるとそれまでの距離はおよそ一メーター半ほどの距離。

　ジャンプして飛ぶには、ちょっと遠い。どこかに流れていくのかな。

　それにしてもなんでこんなところに？
　私はしばらく部屋のいたるところの窓からあちこち眺めてみるけれど、
その変な雲らしきものはその窓からしか見えなかった。

　夕方になってきて、あたりはやや暗くなってきた。
　その日、私はカーテンを閉めずにテレビを見ながら、たまに窓の向こうを
確認した。やはり、雲らしきものは同じ場所に、ぽかりと浮かび続けていた。
　夜になって雨も上がり、月が昇る頃、ドキドキしながら私はもう一度窓を
見た。
　きっと私は退屈のあまり、何か幻覚でも見てしまったような気が
していた。気のせい。きっと、目が疲れてるせい。ありえない話だもの、
雲がそんなに近くにあるなんて。それとも、あんまり退屈がっているから
呆れてどこかの宇宙人がお迎えにきちゃったのかしら。
　それこそ、かなり危ない思考ね。

　窓の近くまで寄ってからじっと目を凝らしてみると、その雲らしきものは
なんとも不思議な色をうっすらと、放っていた。
　白い全体の雲の形の、上全体が月明かりに照らされて、虹色に淡く輝いて
いる。あまりの美しさに、思わずうっとりする。

どうしよう。こんな綺麗なものをみつけてしまって。
どうしよう。一晩寝てしまったら、なくなってしまってるかもしれない。
どうしよう。どうしよう。

　私はドキドキしながら、窓を全開に開けてみる。
　生ぬるい風が部屋に入り込む。
　やはり、ジャンプして届く距離ではない。それにその雲みたいなフワフワは、
私の胸の位置くらいの高さに浮いているから、飛び降りるということも出来ない。
　一体何なんだろう。
　私は、どうすればいいのだろう。

　夜中になって月が真上に昇る頃まで、私はずっと煙草を吸いながらソファーに
寝転んではそのフワフワを眺めてぼんやりしていた。

　夢かも。夢ならわかる。
今までもつまらない夢を沢山見てきたわ。
　現実とはかけ離れたような夢。

　迷路みたいな一軒家の中を探検する夢。

　ガラス細工で出来た街の上を飛来する夢。

　ねずみになって檻の中に閉じ込められてる夢。

・・・睡魔が襲ってきてそのまま、私は夢の中になだれ込んでいた。

　ガラス？それとも、プラスチック？
　木ではない、半透明の不思議なそれは、はしごのように
私の部屋の窓から、雲までを繋いでいた。

　今なら行ける。
今行かないと、きっとこれは間もなく消えてしまう。
そんな気がした。

だから、私はもう、窓に身を乗り出して、部屋の中に
いる飼い猫のほうを振り返ると、「すぐに戻るから安心してね」なんて
声をかけて、はしごにそっと体重をかけた。
　猫は、不思議そうな顔をして、それからまばたきをすると、無関心にまたまどろむ。
　今、行かなきゃ。

　はしごは結構丈夫だった。馬のように四つ這いになってゆっくり、
体重を乗せていく。下には見慣れたビルや道路が眠っている。
　一歩、一歩。
　私、何をしてるんだろう？
　一体、どこに招かれるのだろう？

お読みいただきアリガトございます。
続く・・・

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