犯罪に関わったこと。その２

そう、あれは。
常駐してるのは私の他に女性が二人だけ、
あとは不定期に何人か出たり入ったり、という、
そんな店というか事務所というか、にいた時のこと。

唯一の男性であった私が。
同僚の女性の一人から、相談を受けたんです。
どうも、変なのにつけられてるっぽいと。
ストーカーかもしれないと。怖いと。

とはいえ。
まだ、実害があるわけではないので、警察に相談するって
とこまでは思ってない。でも不気味。なのでけーでぃーさん、
ちょいとお願いします、って。

具体的にはですね。
その人は自動車通勤してたんですが、駐車場から職場まで、
大した距離はないとはいえ、朝も夜も人通りは少ない場所でした。
そこで、駐車場と職場との間の、送迎をお願いしたいと。

もちろん。
ＯＫしました。ほんの数分、一緒に歩くだけのことですからね。
朝、私が先に駐車場で待ってて、その人が来たら一緒に職場へ。
夜は仕事が終わった後、一緒に駐車場へ。それを毎日。

そんなことしてると。
もしかしたら、件の不審者と出くわすかもしれない。
「彼女は俺のものだ！」とか言って襲ってくるかもしれない。
だから備えは必要であろう、と思いまして。

この任務中の私は。
ず～っと昔に、粗大ごみ置き場で拾った
ゴルフクラブを持参して、しっかり装備しておりました。

しかし。
夜はその女性と連れ立って歩くからいいとしても、
朝ですよ朝。おっさんが一人で、ゴルフクラブを持って、
駐車場で待ち構えて、何をするでなくぶらぶらと。

いや。
ぶらぶら、ではなかったですね。むしろ戦闘に備えて、
こうかかってきたら、こう反撃しよう、とかいろいろ考えてましたから。
明らかにゴルフとは違う素振りを全力で。ぶんっぶんっと。

ある時は。
日本刀のように長く持って大上段に構え、容赦なく脳天を打ち砕く！　
……と見せて斜めに角度をずらし、太ももに打ち下ろすことで、
重傷を負わせず相手の戦力を奪う。

ある時は。
右手と左手で、全体の長さを三等分するように持ち、
真ん中の部分で相手を押し返して突き飛ばし、
右上から肩へ打ち下ろし、左下から脇腹を突き上げる。
自分の左手側、つまり相手の右脇腹はちょうど肝臓。急所です。ふふ。

などなど。
長年鍛えた拳法の体捌きと、いろいろ仕入れた武術知識、
小説のアクションシーン描写用のアイデアまで駆使して、
けーでぃー流ゴルフクラブ格闘術に磨きをかけるべく、
駐車場で一人、黙々と修行を……

って。
どっからどー見ても私自身が、立派な不審者ですなわはははは。
お巡りさんに見つかったら、職質されてましたよねこれ（汗）。

で結局。
割と短期間で「もう大丈夫みたいです。ありがとうございました」
と、お役御免になりました。以後、何もなかったようで。
めでたしめでたし。

まあ。
最初っから、彼女の勘違いだったのかもしれませんけど。
それでも、私の活動で安心を得られたのなら嬉しいですし。

あるいは。
朝っぱらから駐車場で変な素振りをする奇妙なおっさんと、
待ち合わせて歩く彼女の姿を見て、
ストーカーめが恐れをなして手を引いた、のかもしれません。

だとしたら。
私、ちゃんとお手柄ですよね。うんうん。