転院してきた彼女

先週初診だった彼女が、今日訪れた。診察室に入るなり、泣き出した。

『先生ごめんなさい！』

『どうしたの？薬、飲み忘れちゃったかな？』

とりあえずはリストカットや、薬の多量服用ではなさそう。

『本当にごめんなさい！私、先生のことさえぐさ先生だと思ってたの。みえだ先生なのに』

なるほど。IDには漢字がメインで、ローマ字でふりがながある。

『よくあるから、気にしなくてもいいんだから！』

普段からよく間違えられるから、慣れてるが…。

『あと、薫先生と聞いて、男の先生だと先週思ってました』

これもよく間違えられる。

『もしかして、ドラマの相棒好きなの？私、あの薫ちゃん好きだよ』

『本当に！私大好きです！でも、右京さんがいいなぁ』

やれやれ。彼女に笑顔が戻った。完璧なほど律儀な性格なのか、そうだから心の病になったのかはまだ分からない。会話をするうちに極度の現実の男性恐怖症なのは確かなようだ。男性看護師を見た途端、うつむいてしまった。相当セクハラがひどかったのだろう。彼がいなくなった途端、また喋りだした。

『大丈夫だよ。嫌がることはしないから』

『多分そうだと思うけど、怖いの。治るかなぁ？』

『ちゃんと毎週来てくれれば治るよ！』

『頑張るね！』

『無理はしちゃダメだからね』

一通りの診察を終えて、次回の予約を入れ彼女が立った時、

『あともうひとつ』

と、右京さんポーズを真似て言った。思わず笑いが止まらなくなってしまった。

『ではまた来週』

と。根は明るい子なんだなと、ほっとした。