傷を抱えた天使たち

朝も早くから、お茶の準備をし


皆が出社するのをひとり待つ私。




大抵、次に来るのはお局様か、スペイン出身の同僚ドラ



お局様はお花を飾り、ドラはお茶汲み（私がしているのを見て以来、お茶に興味深々です）

そんなドラは、中国のシンディーのお姉さん的存在。

ドラのほうがずっと若い（29歳）んですけどね。



ドラは元麻薬中毒者で、元バイヤー（麻薬販売人）で元囚人


8歳で両親が離婚した際、母親と共に麻薬販売の道で生計を立て

11歳で顧客500人を超えるほどだったそうです。


14歳で初めて収監され、以来2度逮捕

20歳のときに副ボスがスペインでの別件裁判に訪れた際に

麻薬購入者と間違えたドラが、副ボスに接触。



副ボスの半日に及ぶ説得によって、母子共々に脱麻薬・更生プログラム（麻薬絶ちするための実習その他）を受け

「もし、自分自身に全うな仕事をする気があるのなら
ロンドンにある、私の事務所のドアを叩きなさい」の言葉を信じ

更生プログラム終了後に、単身ロンドンへ渡り

人員募集をしていなかった私たちの事務所のドアを叩き、「私を働かせてください」とお願いしに来た

実は素直で純粋な若者です。





私の事務所の同僚は、みんな何かしらの（古傷）を持っています。



そしてそれらは、決して傷の大小で語るものではなく


それらを乗り越え、今懸命に生きている人たちばかりです。




道を外れてしまったことは、残念ではありますが



「過ちを悔い、立ち直る機会」を与えるのもこちら独特の文化。

「チャンスは誰にでもある」を見せることも、大事なことのひとつ。




アメリカでギャングのボスの情婦だった同僚もいれば

凍てつくロシアの大地に住み、泥棒を繰り返していた者

辺境のスロベニアで売春婦をしていた者

旅行先で拉致され、輪姦され1年近く監禁され
輪姦相手の子どもを妊娠して産み育てている者

スウェーデンの田舎で虐待に耐え生きてきた者などなど


見渡せば皆、何かしらを経験してきています。



そういったこともあって、この事務所はものすごく多国籍


国境だったり人種だったりを取り除いた存在であるのが「普通である」を


実現しているのが、ボスと副ボスの誇りだったりします。






募集方法も、みんな「やる気」が大事ということで

日本のように広告などで募集するのではなく、

いわゆる「スカウト」方式




「この人は立ち直れる、と判断されたからこそ

現在事務所で働けている。

私は見捨てられていない。

私は結果を出せる。

私は二度と昔の自分には戻らない」


と、誰もが心に掲げています。



そんな仲間の1人に数えてもらえて、私も誇らしく思います。




なので、国籍や肌の色で人をバカにするのはゼロ


昔がどうだった、ああだったと詮索して蔑むのもゼロ


もちろん、性別で判断されることもゼロ
（女性陣が圧倒的に多いので、女性の立場を利用するのはたまにあります）





かなり働きやすい職場環境です。



数年前に日本で問題になった（病気を患っているわけではないのに、病欠で休み続ける公務員）的な存在も考えも

この事務所はゼロ（社会的な扶助や助成制度が成り立っているので、悪用する人は世間に多数いるようです）




そういったことも手伝ってか、皆かなり親切をすることに貪欲です。


それも押し付けがましかったらウンザリなのですが


日本で言うところの「気配り・心配り」が上手なので、私は大好き。



少し熱が出た程度でも、ジッと顔を見つめ異変に気づき


「病気じゃないの？お仕事は中断して帰りましょう。送っていくわ」と
車で2時間かけて自宅に送ってくれたり




お仕事を溜めていると、「一人で抱えたらいけないわ。皆で分けて済ませるわよ」と、取り仕切り作業分担を手配してくれたり



とにかく「おせっかい」で「図々しい」この感じが、私にはとっても居心地よく



毎日仕事に行くことが、とにかく楽しみです。




そして、ボスや副ボスに恩義を感じていることもあるせいか


セクハラなんて無いのが当たり前のはずが、逆セクハラが存在します。



例をあげると

「ちょっと太っちゃったのよ。前と比べてどうかしら？」と尋ねながら

ボスの手を取り、自分のおっぱいを揉ませたり



副ボスが決して見たりしないのを知っているのに

何度も脚を組み替え、パンツをガン見せしたり



実行している本人に聞くと、決まって「感謝してるから、これくらいサービスしなきゃ」

と、（他の男に見られるのは気持ち悪いけど

ボスと副ボスはそんな人じゃないとわかっている上に、立ち直らせてくれたことに本気で感謝しているから

たまには見てスッキリしてね）くらいの気持ちでしているそう。


隣で見てる私には、ハラハラもんですけどね。




欧米は契約的な気持ちでお仕事をする人が多いと感じる中

この職場だけは、「人が人とつながって仕事している」感じが、とても最高です。




不慣れな外国生活でも、こんな職場だったら

誰しも働けることに「誇り」を感じられるんじゃないか

私はそう思ってます。