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スマートフォンはなぜ、「速度規制」されるのか
2011年08月17日 23:47
今回、KDDIがスマートフォン向けに通信制御を導入することにより、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの大手モバイル通信キャリア各社はすべて通信速度制御を実施することになった。また、各キャリアの幹部が、スマートフォンの普及を理由に「パケット料金定額制の見直し」に言及することも増えている。
なぜ、このような状況になっているのだろうか。
●スマートフォンがインフラの収益バランスを崩す理由に
スマートフォンは一般的に、これまでの高機能型携帯電話(フィーチャーフォン)よりも2~4倍の通信量(トラフィック)を発生させる。これはWebブラウザやアプリの仕様が高機能になり、よりリッチな通信サービスの利用が可能になったからというのが表面的な利用だが、根本的な「違い」はスマートフォンとフィーチャーフォンの作り方の部分にある。
従来のフィーチャーフォンは、ハードウェアとソフトウェアが一体的に開発されていた。さらに日本ではフィーチャーフォンの開発計画は、キャリアの要求仕様書に基づいて、キャリアとメーカーが共同で推進するのが一般的だった。そのためフィーチャーフォンには、「キャリアのインフラ投資計画を見ながら、インフラに過度な負担を与えたり、収益バランスを崩さないように配慮されて作られてきた」という経緯がある。
一方スマートフォンは、ハードウェアよりもソフトウェアの進化の方が速く、OSやアプリといったソフトウェア部分だけ独立的に進化する。さらに、これは主要なソフトウェア部分の仕様や機能を作るのが、AppleやGoogleといったグローバルなIT企業であり、彼らは個々のキャリアの要望は聞けど、端末の開発計画で特定のキャリアの支配を受けることはない。誤解を恐れずにいえば、個々のキャリアのインフラ投資計画や収益バランスなどお構いなしに、スマートフォンに新たな機能やサービスを実装しているのだ。さらにアプリなどソフトウェアによる機能拡張も自由に行われるため「キャリアのコントロール外でトラフィックが増えていく」という構造になっている。
さらにキャリアにとって悩ましいのが、スマートフォンでトラフィックが爆発的に増えても、ユーザーに課す通信料金を簡単には上げられないことだ。ドコモやKDDIではフィーチャーフォン向けのパケット定額制よりも上限額を1000円ほど値上げしているが、スマートフォンによる実際のトラフィックの増加量はこの値上げ分では吸収できていない。またソフトバンクモバイルの主力商品であるiPhone向けの料金プランは、戦略的にパケット定額料金の上限が一般的なフィーチャーフォンと同じ月額4410円に抑えられているため、インフラ側の収益バランスは、ドコモやKDDIよりさらに苦しいだろう。
スマートフォンが普及すればするほどトラフィックは増大し、キャリアはそれに対応できるだけのインフラ投資の積み増しが求められる。一方で、これまでのパケット料金定額制の仕組みやスマートフォン市場での競争戦略上、実際の利用増に応じた料金の値上げは難しい。このような二律背反な状況の中で、キャリア各社は苦肉の策として、まずは大量のデータ通信を行うユーザーの通信速度制御を実施。さらにはパケット料金定額制の見直し議論まで起きているのだ。
●今後の注目は「割安なインフラとの併用」に
とはいえ、スマートフォンの普及と市場拡大は世界的な潮流である。またキャリアから見ても、スマートフォンはインフラの収益バランスを崩すという点では悩みの種だが、スマートフォン向けの新たなビジネスやサービスを展開するという点では重要な存在だ。インフラ負担・収益バランスの問題が大きいからという理由で、スマートフォン移行への流れを押しとどめることはできない。
そのような中で、キャリア各社が注力するのが、高コストな携帯電話インフラ以外にトラフィックを分散する「オフロード戦略」の推進だ。ここでは、どれだけ割安なインフラを活用できるかが鍵になる。例えば、データ通信利用が集中する商業施設や公共施設に設置する「Wi-Fiスポット」や、家庭向けの「Wi-Fi」、「フェムトセル(超小型基地局)」活用、従来の3G (第3世代携帯電話)よりもインフラコストが安い「モバイルWiMAX」などは今後さらに注目となるだろう。
【神尾寿,Business Media 誠】
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