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short story:霙のヌクモリ

2008年03月06日 19:21

電車から降りると、外は霙が降っていた。
 霙が降る二月の東京

 寒い。

 傘をもちあるく癖のない私は、駅を出て小走りでいつも寄るコンビニまで向かった。
 上京してからずっと住むマンションの直近のコンビニである。
 コンビニ自体も駅からさほど離れていないものの私の足が遅いのか、着くまでに結構ぬれてしまった。

 (パーマくるくるになる・・・。どうせもう帰るだけだしいっか。)
 そんなことを思いながら、コンビニに入り、かごを手に取る。
 買うものはいつも大体きまっている。飲み物、すぐに食べられるおにぎりサンドイッチ。私は平日、自炊はしない。そして缶ビール350缶を2本。
 
 雑誌類などは興味がないのでいつも素通りをし、レジへ。

 この時間のレジはいつもK君。ほとんど毎日ここへ寄るために、店員の顔と名前はほとんど覚えてしまった。わからないのは平日昼間の店員くらいだろう。
 K君。1年くらい前からここでバイトしてるなぁ。おそらくこの近くにある大学の学生なのだろう。あどけなさの残る顔に軽く脱色した髪。

 あー、そういえばあたしが学生のときにもこんな感じの男の子いたっけ。
 同じ語学だったS君もこんな感じでもててたっけ・・・。

 なんて思いながら、彼がレジを打つのを待つ。

 無表情だ。
 それを見ている私も無表情なのだろう。東京にきてからこういう表情をする機会がとても増えたように思う。
 みんな「他人」。そんな感じがしないでもない。
 
 会社でなんとなく笑う以外、最後に笑ったのはいつだろう。

 「980円です。」
 K君の声にはっとして財布から1000円札をとりだし手渡す。
 「20円のお返しになります。」
 おつりを受け取るために手を出した瞬間、K君の手と手がふれた。
 
 「あっ。」
  小さかったがK君はたしかに声を上げた。
  彼の手はあたたかかった。彼は私の手の冷たさに驚いたのだろう。
  受け取ったおつりを小銭入れにいれていると
 「外、だいぶ寒いみたいですね。」
 と、K君が外を見ながら言い、私に視線を移した。
 「えぇ。まさか降ってくるとおもわなかったわ。」
 「風邪、ひかないようにしてくださいね。」
 霙で濡れたあたしに思ってもみないやさしい言葉をかけてくれた。
 「大丈夫、うち、すぐそこだから。」
 なんとなく気恥ずかしくて笑うと彼も笑った。
 優しい笑顔だった。

 「それじゃ。」
 店を出ようと彼に背をむけると
 「ありがとうございました。また、お待ちしています。」
 と彼の声が追ってきた。

 再び寒い屋外へ出た。
 マンションまでまた霙に降られる。
 それでも私の心は温かかった。

このウラログへのコメント

  • らいと 2008年03月06日 21:35

    ステキな話ですね。

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