山の匂いと川の音

誰かの都合を気にすることなく
自由に行きたい場所に行くのが
こんなに清々しく開放的な気持ちになるという事を
すっかり忘れていた

学生の頃は金は無いけど時間とバイクだけはあって
気分が落ち着かない時にはフラリとバイクで山が見える方へ走らせたものだ

当時はガソリンが水よりも安かった事もあって
コスパの良い癒やし方だった

仕事で使う軽バンだから誰に気兼ねすること無く
こいつに乗って何処にでも行かれる

子供も大きくなって親と出かける事も無くなったら

一人で出かける喜びを思い出した

社会人になってから今までの約30年間、隣にはいつも彼女がいたし、妻が居た時期もあった

それが家族に変わり、家族が離れて行く頃には、いつの間にか人生の折り返し地点

誰かを喜ばせようと色んなところに連れて行ったけど

それが自分自身の幸せだと思っていた


行きたい方向にハンドルを切って、遠くに見える美しい山を目指す

そこで見つけた昔からあるドライブイン

誰に相談することもなく駐車場に滑り込み

自由にメニューを選んでオーダーする

窓から見える渓谷の景色

都内とは明らかに違う気温

家のに近い味のカレーにはイノシシの肉が入っているらしい

ゆっくり食べるのは性に合わないけど、子供の手前そうしてきた

今日はそんな事も気にせず口いっぱいにカレーを頬張り

あっという間に食べ終わった

少し上がると登山口らしき場所

懐かしい匂い

これが山の匂いだったな

耳を擽るヒグラシの音色

川の音



一人っていうのも満更じゃない

寂しがってた自分はどこかに行ってしまった

どうやら人生、上手く折り返せたようだ