- 名前
- 松田文学男爵
- 性別
- ♂
- 年齢
- 60歳
- 住所
- 東京
- 自己紹介
- 僕はアンドロイドなんだ。 アンドロイドだって夢は見る。 でも、それはキミたちのように...
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もう今から15年以上前、俺はベイエリアのとあるカフェでボーイのバイトをしてた
2021年12月28日 09:54
もうすでにおっさんなのだが投下する
長文だけどよかったら聞いてくれ
もう今から15年以上前、俺はベイエリアのとあるカフェでボーイのバイトをしてた
その店は雑居ビルの最上階にあり窓からは東京湾の夜景が見れる店
当時はネットで店の情報を探るなんてものはなかった時代
だから知る人ぞ知る、大人の隠れ家的なカフェだった
その日はクリスマスイヴだった
いつもは常連が多い店もその日だけは初めて来店するカップルで賑わっていた
たしか8時をまわった頃だったと思う
女性が一人で来店した
年齢は30歳前後、髪は長めプラダのバックを持っててとても雰囲気のある女性だった
なにより抜けるように白くてきれいな肌の女性だった
「いらっしゃいませ。何名様ですか? お好きな席へどうぞ」と接客
その店のバーテンは二人ともイケメン
それ目当てに一人で来る女性は珍しくなかった
だからカウンターに行くんだろうなって見てると予想を裏切り窓際のカウンターへ
メニューを持って行くと「待ち合わせなのでオーダーは後からで」と
俺は持ち場に戻った
少しずつ夜も更けてくるとカップルが一組また一組と帰って行った
こいつらこれからどっかでセクロスしまくるんだろうぐぁの妬みいっぱいになりながら接客に没頭
窓際の女性の待ち合わせ相手がまだ来てないのに気づいたのは10時を過ぎた頃だったと思う
その頃には客もまばらだった
カウンターに行きオーナーでもあるチーフバーテンダーに「あのお客さんの連れまだ来ないっすね」と話した
オーナーだけじゃなく他のボーイらもみんな気になしていた
と言うのはその女性、待つことが当たり前のように座ったままずっと窓の外を見ている
普通ならカウンターに肘をつくとか座り位置を直すとかするのにずっと同じ姿勢と同じ目線
その横顔はどこか寂しげでもあり楽しそうでもある
その雰囲気は店の者みんなが声をかけにくくするのに充分だった
それから少し時間がたったころ仲間のボーイが少し慌て気味にやってきて
「あの窓際の女性、居ないんだけど」と
まさかと思い店を見渡しても姿が見えない
「トイレじゃないの?」と聞いてみたのだがそこにもいないと
いったいいつ店をでたんだ?ってことになった
すぐにチーフバーテンダーへ報告
「きっと待っても来ないとわかってこっそり帰ったんだろう」と
まあなにもオーダーをとって無かった訳だし、イヴにふられるなんて可哀そうな女性だなってことでその場は収まった
その時、一人の男性が来店した
その男性も見たことない人だった
いつものようにお好きな席へと言うとその人は先ほどまで女性が座っていた窓際のカウンターへ
俺はメニューを持ってオーダーを取りに行った
「モスコミュールとローゼスのプラチナをシングルで」忘れもしない、このオーダーだった
モスコにローゼス?変な取り合わせだなと
その時思った
あ、もしかしてさっきまでここにいた女性が待ってたのはこの男なのかなと
オーダーを告げた時チーフに言った
「あの人、もしかしてさっきまでいた女性が待ってた男ですかね」
「いや…どうかな。もし待たせたならもう少しあわてた素振りあってもいいだろう。こんな時間での約束ってのも変だし。」
確かにそうだった。もし遅刻して相手が居ないのなら店の中を見渡すだろう。店の人間に聞くのも普通だし。もうすぐ日付も変わるこんな時間に待ち合わせってのも変だ
チーフの答えに半ば納得した俺は男性へオーダーされた酒をもっていった
二つとも飲むと思ってた俺は男性の前にモスコとローゼスを置いた
するとその男性はモスコを誰も座っていない隣の席の前にすべらせたのだ
そして置いたままのグラスに軽く乾杯をしてローゼスを口に含んだ
何とも言えない悲しそうな表情を浮かべながら
そしてその表情のまま窓からの夜景を見ていた
どおしちゃったんですかね、あの人。なんかふられたって感じでもないし」チーフに話した
「イヴだからって幸せなヤツばかりじゃないってことだろ」チーフの答えだった
日付も変わってしばらくすると店にはその男性しか居なくなった
相変わらずどこか寂しげに夜景を見ながら一人で飲んでた
チーフがカウンターから出てきてその男性のところへ
「もうお客様しかいません。よかったらカウンターへどうですか?お話しながらのほうがお酒も美味しいですよ」
男性は少しだけ恐縮しながらカウンターにやってきた
最初は普通の世間話だった
店にある酒の話とかプロ野球の話とか
そのうち酔いもまわってきたんであろう男性がぽつりぽつりと語り始めた
去年の春に結婚した
その年のイヴにこの店に来てあの席で二人並んで飲んだ
奥さんは結婚して初めてのイヴを過ごしたこの店がすごく気に入り来年も来ようと言った
来年だけじゃなくこの先もずっとイヴはこの店ですごそうと言ってた
とても幸せな幸せな時間だった
でもその奥さんが白血病になった
もうどうしようもないくらい進行が早くて治療が追いつかなかった
抗がんの副作用で苦しむ奥さんに今年もあの店に行くんだろう、頑張れと言った
奥さんもあのお店に行きたいと言ってた
でも先月の初めに亡くなった
今日も部屋で一人泣いていた
街に出て幸せそうなヤツらを見るのが耐えられないから
酔って寝てしまおうと思った
それで家にあった酒をコップに注いだ時、不意にこの店に行こうと思った
なぜかわからないけど急にこの店に来たくなった
それでタクシー飛ばして来たんですよと涙を浮かべながら話してくれた
その瞬間全てがわかった
俺だけじゃなく店の人間全員が
思わず聞いてしまった。そして言ってしまった。
「あの…奥さんは髪の毛がこんな感じで身長がこれくらいでプラダのバック持ってますか」と
「その通りですけど、どして?」
「お客様が来られる前、あの席に座っていた女性がそうだったんです。待ち合せの相手が来なかったのでてっきりふられて帰ったのかと」
「そうか、先に来てたんだ。もう少し早く来たら会えたのに」そう言って泣き崩れた
チーフが言った
「きっと来ても会えなかったと思います。なぜなら待っていた女性は寂しいというよりどこか安らいでる表情でしたから。きっとお客様とすごした時間が幸せだったからでしょうね」
俺もそう思った
きっと早く立ち直ってほしいからこの店に来させそして痛みや苦しみから解放された姿を俺らに見せ伝えることで早く立ち直って欲しい奥さんの愛なんだろうと
今でもこの時期になると思いだすこの不思議な話
長文で失礼でした
最後まで読んでくれてありがと
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