挫折

『　あんたは挫折したことがあるか？

　それもそんじょそこらの挫折じゃねえ―――
　失恋のショックで1日ご飯が喉を通らなかったとか、楽しみにしていたゲームが発売日に売ってなくて軽く鬱入っちゃったとか、そんな半端なレベルじゃねえ、ぽっきりと背骨から真っ二つに折れちまうような、そんな究極とも至高とも言える、言わば一生に一回モンの挫折ってのを経験したことがあるか？
　それが自分の人生の全てだと思っていて、だからある意味においてすごく当たり前で、決して失われることはないだろうと信じていたものを、あっさりと失っちまったことがあるか？

　　オレはある。　　　　　　　　　　　　

（中略）

　あの頃のオレは、英雄だった。
　言うなれば主役だった。
　言うなれば一流だった。
　言うなれば――オレ様だった。

（中略）

　挫折を知るまでのオレは。
　まさにオレ様だったのだ。
　オレ（オレ様）は自分のことが大好きだった。

（中略）

　オレ（オレ様）がいなくなってしまった今でも。
　オレは――オレ様を思い出しては悲しい気分になる。
　オレは、もうオレ様ではないのだ。
　英雄でもないし。
　主役でもないし。
　花形でもないし。
　一流でもないし。
　そして――オレ様でもない。
　挫折したオレは、ただのオレだった　　　　』


　　　　　　　　　　　　西尾維新『蹴物語』より抜粋