S.S.S

心地よく眠っていると　時折　彼の手が私の鼻に触れる
驚いて　寝ぼけマナコを開けると　不安気な顔がスっと横切る

私の寝姿は　胎児のように丸くなり　
左に固まったまま　微動だにしない。。らしい
寝息もかすかなので
「死んでいるのではないのか？」と　同衾した男を心配させるそうだ


どうせならば腹上死　
離れて独りで　冷たくなるもんか・・・



その明け方も　そうだった

「ん～　眠いのに～　何。。？」

邪魔な手を払い　やっとの声を出して　また暖かい空間に潜ろうとすると
彼が　その場を割って入ってくる
控えめに　お尻を　胸をまさぐる　熱い手

ん。。。。

「寝よう・・・寝せて。。。まだ5時じゃない。。。」

動きを制さず　彼が耳元で囁く

　　ええよ。。。ヤ～は寝てなさい。。俺に勝手させて？
　　気持ちよく　眠っててください
　　邪魔はせんよ

静かに　たたまれた膝を伸ばされ　パジャマごと　ショーツが下ろされる

　あ。。。。本当に眠いの・・・・今日は力仕事もあるのだから
　クマを作って　出勤できないよ・・・

むきになってでも　絶対に反応するもんか
　人形じゃ　詰まらない。。。と　諦めてくれたらいい
　　一緒に眠ろう・・・



そんな寝惚けた想いは　すぐに飛ばされ
忙しなく動く　手　指　唇に
私の身体が息を始める

　　寝てるんやろ。。。
　　なんで　ビクっと震えるん？
　　黙って　動かないで。。。。

耳の奥に届く　何処か粘着質な　意地悪い科白
少しずつ　開いてゆく　わたしに。。。囁く　あの声。。。




そんな日常が　あるときから　一方的に断絶され
キスはおろか　身体の一部が触れ合っただけでも　嫌悪の表情をみせる夫
あれから　先月の半ばで丸4年となっていた






眠れない状態はピークにきて
麻酔の説明　執刀医からの手術の詳細を受けた日の深夜
どう目をつぶっても　全くの睡魔を寄せ付けない興奮気味の自分
術後は痛みで眠れないだろうから　
今のうちに体力を温存しなくては、、という焦りと
どうせ　病院で眠るのだから　無理したって　眠れないものは仕方がない
この真逆な想いが　交錯して　
朝が待ち遠しく　取り敢えずは布団にあった
ガサっという音がして　彼が部屋を出てゆく
珍しく　トイレのようだ
時計に手を伸ばせば　2:30a.m
薄明にも　まだまだの時間帯

ドアが開き　彼が戻ってきた
そのまま　隣へゆく気配。。をみせずに
彼は　そっと私のベッドに入ってきた
少々乱暴に　私の頭を持ち上げ　グっと抱きしめて
腕枕を完成させて　驚きと緊張で固まる私を置き去りに
即効　軽い鼾をかいていた



昨年末　離婚を切り出したものの

「駄目だ。納得がいかない。」と打ち消され

一緒に正月　帰省して　
そのとき　風俗を歩いてみた話しを聞かされた
結局は何もせず　日本語も怪しいような若い女の子に　背中を撫でられ
時間まで　ただただ　そこへ居た。。。
と
複雑に笑いながら語る彼を　正視できずにいた


　男の機能が問題で別れたいのではないのに・・・・


　どうあっても　もう伝わらない想い
　理解したとしても　彼自身の拘りは　私では解かせられない



明け方まで　身を硬くしていたせいか　足が攣り
痛みを堪えて　そっと塒を抜け出した


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


明日には　病院に入る
詰めてはやめ　最低限だけ入れた小さな旅行バッグを持って
後は　お任せするだけと。。。
眠れない私は　そっと　起き出してみる
今夜　旦那は高鼾　
夕飯時に珍しく　日本酒を呑んでいたからなのかもしれない
枕の位置を　もっと左に戻したところで　鼾が止まった
ふいに　布団を剥ぐ音
暗闇でも　彼が動くのが解かる
自然に　普通に　昨夜同様　また彼は私の横に来た

　ああ　不安を拭い去ってくれる気持ちなんだな・・・・・
　憐憫　それでも嬉しい

そう感じていたとき
彼の手が　私のお尻にそっとあてられた

　　　！

。。。。どうしてしまったのか


声も出さず　固唾を飲んでいると
そのまま　柔らかく優しく　撫でてくる
まるで　眠れない子供をあやすかのような動作
彼は　身長が高く　私と30cm以上の開きがあるので　
私たちが　手を繋いだり　寄り添って歩くと
「電信柱にセミ」
と　よく笑われたものだった
いまも　そんな格好？

その揺り篭のような　一連の所作が　
官能的な動きへと移る
私の混乱は　激しくなった


　どうしたの。。。？何をするつもり


下着にかかる熱い手
うなじを行き来する　燃えるような舌


　　　　　力を抜いて・・・・
　　　　　頼む・・・ビクつかないで・・・・


懐かしいような　耳元へ掠める声
全身が鋼のように　突っ張るのを遠くで感じていた

　　　　　ヤヨイ　ヤー。。。。。。
　　　　　頼む・・・・







　私と彼は　あの夜
「小さな死」を迎えた




　　　　　明後日　手術の女を。。
　　　　　俺って獣だな。。。。



その詞には　何も言えなかった
多分　行為は男の生理ではなくて　人間の情
弱っている者を　どう励ますのかで動いた　彼の機能。。。？

どんな傷を抱えて　来月　またここに戻るのかは判らないけれど
最期であっても　嬉しかった
それが25日の深夜の泪


そんな杞憂を　何処へ持ってゆけば良かったのか
退院後　まだ　絆創膏も剥がせない状態の私を
彼は　毎晩　愛撫した

　　　
　　　　　　大丈夫か？　痛くないんか？


そうして　男と女は　
三年余の拘りも　
出てゆく決起となった夜の件も　その間の何もかも
ぶちまけたい恐ろしい感情には　一切触れず
拗れていた時間を　誰に説明するでもなく
一見　元通りに納まった

私の痩せ落ちた肉は　少しずつ丸みを戻しつつある
濃くなった目のくまも薄れ　ほぐれてゆく心身

平穏は温かみを連れ戻してくれる？
こんな済し崩しで　
全てを流し　黙って生きてゆく？

それは賢いこと
私の愚かさが　時折　暴れそうになっても　
乱すのは　愚　・・・

彼が好きで　大事で　ずっと切なかった
彼を想い　遣り切れなさに　幾度　何かを殺してきたか




そんな問題をぶつけず　
自分だけのエゴを押し付け　
それでも包んでくれていた人
そんな大事な人に　違う大切な感情がある
大きな　愛おしさが止まらない


いま　都合よく並列できるものなのだろうか　　
と　息苦しくなる　

それが　
本当の意味で静養できない　現状の私の醜い姿

私は　一人耐え忍ぶ　貞淑な妻であったのだろうか。。。
誰にも　触れず　触れさせず　この刻を過ごしてはあったけれど。。。




　S.S.S　
　　　　ーSweet Smell of Successー

　　　甘い　成功の　かほり

　　　　　いま　嗅ぎ採ってみたくなった・・・・



https://www.youtube.com/watch?v=uXULG-UKVq8&feature=related





　デジで生まれたニンフォマニア　
　ヤヨイという女が　浅き眠りを突き破る


　　　　救いなのが　彼女は　まだ不敵に笑えないこと
　
　　　　　歪んだ頬の　

　　　　　　　　　　　　　　小さく哀しい悪魔




https://www.youtube.com/watch?v=6lAqma24jJY&feature=related


　　　　　　女は　明日の顔を持つ