- 名前
- T助
- 性別
- ♂
- 年齢
- 38歳
- 住所
- 石川
- 自己紹介
- はじめまして。ウラにどうぞ。 プロフィール見に来てくれてありがとうございます。 ※ポ...
JavaScriptを有効にすると、デジカフェをより快適にご利用できます。
ブラウザの設定でJavaScriptを有効にしてからご利用ください。
思い出ストーリー (創作)
2025年11月13日 05:39
カレンダーの隅に書き込まれた「同期会」の文字が、やけに重く岸本亮太(きしもとりょうた)の目に映った。
28歳、システム開発会社勤務。深夜までの残業も厭わないほど仕事は充実しているが、プライベートのスケジュール帳は白紙に近い。
先週末の同期会で、また一人、結婚報告があった。祝福の拍手を送りながら、亮太は焦りよりも、じわりと広がる「寂しさ」を感じていた。
「亮太もさ、そろそろ考えたら?いい人いないの?」
「……いれば苦労しないよ。」
そんな乾いた会話を、ここ数年、何度繰り返しただろう。職場は男性ばかり。
趣味は週末のカフェ巡りと読書だが、そこで劇的な出会いが待っているわけでもない。
「だから、アプリだって言ってるじゃん。」
昼休み、同僚の美咲(みさき)がスマホを見せながら言った。
「今のアプリは全然違うよ。ほら、これ、私が使ってるやつ。本人確認必須だし、24時間パトロール体制。運営がしっかりしてるとこ選ばないと。」
亮太は、いわゆる「マッチングアプリ」に漠然とした抵抗感があった。「出会い系」と呼ばれていた時代の古いイメージが、どうしても拭えなかったのだ。サクラや、いわゆる「業者」の噂も耳にする。
「亮太みたいな真面目な人ほど、普通にしてたら出会えないんだって。真面目だからこそ、こういうちゃんとしたツールを使うべきだよ。」
美咲が推してきたのは、業界でも特にセキュリティマッチング率に定評のある「デジカフェ」というアプリだった。
その夜、亮太は、まるで難解な仕様書を読み解くかのように、アプリの利用規約や運営会社の情報を隅々まで確認した。確かに、身分証による年齢確認は必須。不審なユーザーへの対応も迅速だと、レビューには書かれている。
「……ええい、ままよ。」
深呼吸を一つして、亮太はアプリをインストールした。
プロフィール作成は思った以上に難航した。運営が提供している「誠実さが伝わるプロフィールの書き方」というコラムを熟読する。
「写真は笑顔が基本。でもキメすぎないこと。」
「自己紹介文は、具体的に。趣味や休日の過ごし方を書くと、相手もイメージしやすい。」
亮太は、先日友人とハイキングに行った時の、少し照れくさそうに笑っている写真を選んだ。自己紹介文には、悩んだ末に正直な言葉を綴った。
『はじめまして、亮太といいます。都内でSEをしています。
仕事柄、平日はPCと向き合っていることが多いですが、休日はふらっとカフェに出かけて、本を読んでいることが多いです。最近は東野圭吾さんの作品にハマっています。
以前はアプリに少し抵抗がありましたが、真剣な出会いがほしくて登録しました。
お互いに尊敬しあえる関係が理想です。よろしくお願いします。』
これでいいのだろうか。不安に思いながら「登録」ボタンを押すと、すぐに「本人確認が完了しました」という通知が来た。運営の仕事の早さに、少しだけ安心感を覚える。
その日から、亮太の日常に「スマホをチェックする」という新しい習慣が加わった。画面に並ぶ、無数のプロフィール。タップする指先が、誰かの人生の「表紙」をめくっているようで、不思議な感覚だった。何人かから「スキ!」が届いたが、どうにもピンとこない。
「焦る必要はないんだ」
そう自分に言い聞かせ、運営のコラムにあった「共通の趣味から探してみましょう」というアドバイスを思い出す。検索条件を「読書」「カフェ巡り」に絞り込んだ。
その時だった。一枚の写真が、亮太の目に留まった。
柔らかそうな日差しが差し込む本棚の前で、白いブラウスを着た女性が、はにかむように微笑んでいる。
「ミサキ、27歳、図書館司書」
自己紹介文は短いが、とても丁寧な言葉で綴られていた。
『はじめまして。ミサキといいます。
図書館で働いています。静かな場所で、ゆっくりと本の世界に浸るのが好きです。
最近読んだのは、深井リュウ(亮太がちょうど読み終えたばかりの作家)の新刊です。とても感動しました。
休日は、美味しいコーヒーを淹れて過ごすことが多いです。
素敵なご縁があれば嬉しいです。』
—― 鼓動が、トクン、と鳴った。
亮太は、自分の指先が微かに震えていることに気づいた。深井リュウの新刊。まさに今、自分も感動したばかりの本だ。
迷いは一瞬だった。彼は、そっと「スキ」のボタンを押した。
翌朝。けたたましいアラーム音で目を覚ました亮太は、寝ぼけ眼のままスマホを手に取った。そこには、見慣れない通知が一つ。
『ミサキさんがあなたのプロフィールにスキ!をつけました!』
一気に目が覚めた。心臓が早鐘を打つ。
「メッセージを送りましょう」というアプリの表示に促されるまま、トーク画面を開く。
何を送ればいい? 運営が用意した「はじめまして!よろしくお願いします」という定型文を一度は入力しかけたが、すぐに消した。
『はじめまして、岸本亮太です。「スキ!」ありがとうございます。
ミサキさんも深井リュウ、お好きなんですね。僕も新刊を読んだばかりで、特にあのラストシーンには心を揺さぶられました。』
送信ボタンを押す指先に、昨夜とは違う種類の緊張が走る。
返信は、昼休みに来た。
『はじめまして、ミサキです。こちらこそ、ありがとうございます!
亮太さんも読まれたんですね!わかります、あのラストは本当に…。読み終わった後、しばらく動けませんでした。』
そこから、堰を切ったようにメッセージのラリーが始まった。
お互いが好きな本の感想。最近見つけた居心地の良いカフェの情報。司書の仕事とSEの仕事、畑は違えど「情報を整理し、人に届ける」という共通点。
亮太は、スマホの通知音が鳴るたびに、胸が高鳴るのを感じていた。
ミサキの文章は、いつも穏やかで、言葉選びが丁寧だった。画面越しに、彼女の息遣いや人柄が伝わってくるようだった。返信を待つ間、彼女は今、図書館でどんな本に囲まれているだろうかと想像する。
登録から一週間が経った金曜の夜。亮太は、いつものようにミサキとメッセージを交わしていた。
『そういえば、プロフィールに「美味しいコーヒーを淹れる」って書いてありましたけど、こだわりとかあるんですか?』
『こだわりというか、豆を挽くところからやるのが好きなだけです(笑)亮太さんは、いつもカフェですもんね。』
『はい。家だと、どうしてもインスタントで済ませちゃって…。』
トーク画面を見つめながら、亮太は何度か文字を打っては消した。
「もしよければ」
「今度」
「お茶でも」
—― ダメだ、ぎこちない。
彼は一度深呼吸をすると、コラムにあった「お誘いはストレートに、場所も提案するとスマート」という一文を思い出した。
『ミサキさん。もしよければ、今度の日曜日、お互いが「気になる」って話してた、駅前のブックカフェに一緒に行きませんか?美味しいコーヒー、僕にご馳走させてください。』
送信。既読の文字がつく。
そこから数分間、返信が来ない。時間が、やけに長く感じられる。
(早すぎたか? 迷惑だったか?)
ネガティブな想像が頭をよぎった、その時。
『ぜひ!』
短い、しかし弾むような、絵文字付きの返信が届いた。
『嬉しいです。私も、亮太さんと本の話、もっと直接してみたいと思ってました。』
日曜日、午後2時。駅前の時計台。
亮太は、約束の15分前に着いていた。
今日のために新調した、少しだけ良い生地のシャツ。鏡の前で何度も直した髪型。それでも、ガラスに映る自分は、ひどく落ち着きがなく見えた。
(本当に、来てくれるだろうか)
アプリでの出会いだ。ドタキャンも、ありえない話ではない。
(写真と、全然違ったらどうしよう)
(うまく、話せるだろうか)
期待と不安が、心臓を交互に握りしめる。
時計の針が、午後2時を指した。
「……あの、岸本さん、ですか?」
不意に、背後から柔らかな声がした。
振り返る。
そこに立っていたのは、写真で見た通りの、いや、写真よりもずっと穏やかで、知的な雰囲気の女性だった。淡いミントグリーンのワンピースが、彼女の白い肌によく似合っている。
「は、はい!岸本です。…ミサキさん、ですよね?」
「はい、ミサキです。はじめまして」
ミサキさんは、ふわりと微笑んだ。その笑顔は、プロフィールの写真よりも、何倍も魅力的だった。
「ごめんなさい、少し迷ってしまって」
「いえ、全然!僕も今来たとこです(大嘘だ)。」
ぎこちない会話。だが、不思議と嫌な沈黙ではなかった。
「じゃあ、行きましょうか。ブックカフェ。」
「はい!」
二人、並んで歩き出す。
亮太は、数週間前の自分を思い出していた。アプリに抵抗を感じ、出会いなんてないと決めつけていた自分を。
運営スタッフの皆さん、あなたたちが作ってくれたこの「場」は、確かに機能しています。
そして、このアプリを使っている「誰か」へ。
勇気を出して一歩踏み出せば、こんなにも胸が高鳴る瞬間が待っているかもしれない。
目の前を歩くミサキさんの横顔を見ながら、亮太は確信していた。
この小さな画面から始まった縁は、きっと、温かい物語になる。
緊張から、確かな期待へと変わった高鳴りを胸に、亮太はカフェのドアに向かって、ミサキさんより一歩先に、そっと手を伸ばした。
おしまい。
感想、お待ちしてまーす!









このデジログへのコメント
コメントを書く