「事件」なら……

「事件」と聞いたら、もう他が浮かばなくなってしまった

「9.11」

事件というか、テロだけど

あの頃は、実家を出て、一人暮らしをしていた

初めて一人でリアルタイムにニュースを観た事件だったからだろうか

それとも、数年前まで住んでいたことがある国で起きたからだろうか

とにかく、鮮烈に憶えている

ネットが普及し始めたばかりの頃で、月額定額制の接続サービスもやっと手頃になったぐらいの頃

未だダイアルアップ接続の人も少なくなく、23時から翌朝6時までだったか、指定した電話番号への通話がかけ放題になる「カケホーダイ」の時間帯にネット接続が集中する

そんな時代だった

行きつけのチャットルームで話しながら、TVのニュースをリアルタイムで観ていた記憶がある

戦闘の為に産み出された兵器ではない、一般市民を乗せた旅客機が、あの巨大な構造物に吸い込まれる様に激突する様子

空いた巨大な穴から、映画より控えめな爆炎が上がる様子

白い何かが、ビルからひらひらと舞い落ちていた

当時のまだ解像度の低いブラウン管のTVでは、後日クローズアップされた映像を見るまでは、それが人だとは気付かなかった

一機目が突入したところはリアルタイムではなかったが、二機目が隣の棟に突入する瞬間は、衛星中継でリアルタイムに放映された

そして、画面の中で音もなく崩れ落ちて行く巨大な二対の塔

絶望を絶望で上塗り続ける、現実感の無い映像が

ハリウッド映画でも観たことがなかったような凄惨な光景が、淡々と画面に映し出されていた

現実が、フィクションを超越したと思い知った瞬間だった

それほどまでに衝撃的だったから、誰の感覚でも、日常という概念が大きく揺るいだのだと思う

パソコンの画面に流れる、チャットルームのテキストだけのログからも、云い様のない不安や恐怖が入り混じった異常な興奮が感じられた

YouTubeで陰謀論やオカルト動画のネタにされているのを見掛ける度、時の流れの残酷さと虚しさを感じずには居られない