デジカフェはJavaScriptを使用しています。

JavaScriptを有効にすると、デジカフェをより快適にご利用できます。
ブラウザの設定でJavaScriptを有効にしてからご利用ください。

【SS】二人の隙間に春風

2009年04月23日 09:01

彼氏と別れて3ヶ月が経った。
始めは毎日泣いていた私も
さすがに独り身であることになれてきた。

空いた薬指が、なんだか寂しいけれど、
それなりに毎日楽しくやっている。


久しぶりに
所属していたサークルが懐かしくなって、
キャンパスの離れに在る部室棟へやってきた。

ここに来れば、誰かしら居る。
今となっては私の同期はもう居ないだろうけど、
就活もまだの暇人どもがたむろしているはずだ。
私がまだ2年生の頃なんか、そうだな、
毎日のようにここで漫画読んだり仮眠取ったりしてたな。
私の他によくここに来ていたのは、
ほらアイツとか――。


「あ、よう」

「!」


なんでオマエ、いんの?

そっか。暇人だっけか。


「こんにちは、お久しぶりです!」

「あ、うん。久しぶり…」

「今日はどうしたんですか?」


他には一つ下の後輩が二人いた。
特に用があったわけでもない私は、とりあえず腰を下ろす。
隣しか、空いてなかった。ああ、もう。


「何…してるの?」


こっちを向いて、話し掛けられてるのは自分と分かると、
持っていた雑誌に視線を戻して「暇つぶし」といった。

どぎまぎする。
好き、な感情は薄れていた。
3ヶ月の間私は泣き疲れたし悩み疲れた。
時の流れと共に、愛情なんて、
少しずつ消え去りつつあるところだった。


部室の中が、なんとなく沈黙。

目の前の君、は、
雑誌を下ろして飾られている古びたギターを手に取る。
そういえば隠した特技、ギターだっけか。


後輩二人が安心したように会話し出した。
私は窓から吹き込む風に打たれながら、
その心地好いメロディーに聞き惚れる。

この曲は、『愛の挨拶』。
まさか、そんなことに意味があるとは思わないけど。

風に吹かれて、前髪が揺れる。

大好きだった君の、横顔――…。


「あ、あの、僕ら飲み物買いに行ってきます!」


気を遣ったのか否か、二人は部室から消えた。


二人きりだ。
気まずい…かな?
ん~でも悪い意味じゃなくて。
緊張してるかも。


好きなんて感情、消えてきたと思ったのに。
どこかで忘れられない?
そもそもここに来てしまったのは?

やっぱり、まだ好きなのかな。
強がってるだけで本当は。


それとも?


きっと私は今、君に、恋をし直している。


胸が、揺れる。

本当は、まだ、こんなにも好き。



曲が、止んだ。

ギターを置く。

君は立ち上がる。


目が、合う。



えっ…



ぎゅっと抱きしめられる。
二人の髪を風が揺らす。

一生のようで、一瞬の時間。



「ごめん」



一言残して、君はいなくなった。


完全な静寂


驚きはした。
けど、懐かしくはなくて。寧ろ自然で。

やっぱり過去のものにはしきれていなかった。


私が何度も疑った、
「いつまでも好きって言える自信あるのに」
っていう言葉、
本当かは証明だけないけど
少なくとも今はまだ嘘になっていないみたいで…


「でも別れよう」
っていうその言葉一つが、今も私を苦しめる。


なんで?
好きなのに。

なんで?
なんで?

二人の成長のためっていうけど、
私は何も変わらないよ。
別れても何も変わらないよ。
少し笑顔が減ったくらいで。
涙を堪えるのがうまくなったくらいで。


古びたギターが陽を浴びる。

懐かしいメロディーが聞こえてきそうで聞こえない。


私はまた、君に会いたい。

このデジログへのコメント

  • まこと 2009年04月24日 02:14

    今日も長い気持ちのこもった感じですね。いいですね!

  • hinako 2009年04月25日 08:47

    > まことさん

    感想ありがとうございます。
    久々に書いたのですが気に入っていただけて良かったです。

コメントを書く

同じ趣味の友達を探そう♪

  • 新規会員登録(無料)

プロフィール

hinako

  • メールを送信する

hinakoさんの最近のデジログ

<2009年04月>
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30