吉野源三郎

ほのかな願い

死ぬ前までに、もう一度会えたらいいなと思う人がいる。何が何でも探し出したい人物ではない。自分の生きかたに影響を与えてくれた人なのだけど、相手はそうとは知らない人。なぜ縁遠くなってしまったのかも忘れてしまったくらいの付き合いしかなかったあこがれの人。つまらない誤解でそれっきりになった小さな気がかりを残した人。

自分はもうこうやって人生を生きているのだから、そんな思いは日々の出来事の中に沈み、敢えてこの人達を探しだす必要はない。ただ、どう生きたらいいのかと選択をせまられたとき、今もこの人達をふと思い出すことがある。

長い時間の流れの中で、もんもんとした、ドキドキした、気がかりだった感情はからだから消え、もう一度会えたらいいなと思っているのである。もし、その人に偶然に出会うチャンスがあっても、相手は私のささやかな思いや、小さな気がかりなんぞ、忘却のかなたといった感じで、声をかけなければよかったと思うかもしれない。だから、相手がどう反応しようが、自分はどうしてももう一度会いたいという強い願望でもないかぎり、あえて探し出すことはなく一生を終えるのだろう。

でも、本の中で出会った人は違う。もう一度会えたらいいな思っていた本に出会って、その本から肩透かしをくったりすることはない。なにしろ、その本に出会ったとたん、そのころの自分にまで会えてしまうのだから。



今日は俺の担当教授との面会。
ひさしぶりだぁ。
吉野源三郎さんの本から
抜粋させていただきました。
いまこんな気持ちかなぁ。