書籍:買う5秒前

今回の紹介は、草場滋氏の著書です。


■買う5秒前
■草場 滋（著）


私は職業柄、書店によく行く。
今日はこの本を買おうと決めていくことも多い。
しかし、たまにふとしたきっかけで違う本を取ってしまうことがある。
何者かが私の脳にスイッチを入れて、違うものに触手を動かしてしまったのである。
洋服屋で、今日はネクタイを買おうと思っていたのに、シャツを買ってしまったなんてこともある。
この買う前の脳のスイッチ、人を購買に駆り立てるものを究明し、解説している本です。
人間の心理状態に関して楽しみながら学べ、販売促進や商品開発のアイデアのヒントにもなる素晴らしい一冊です。
各項目にイラストがあり、それを見ているだけでも、気づきが得られます。
それでは特に参考になった話を紹介していきます。


●黒には不思議な魔力がある。
一見、暗くて重いネガティブなイメージだが、その裏には素材感や本物感、高級感といったプレミアムな性格が隠れている。
アメリカン・エキスプレス社の最上級カードは「センチュリオン」となるブラックカード。
世界でも限られたVIPのみが持つことを許され、世のエグゼクティブたちの憧れの的である。
他に、サービスでも黒は高級感を醸し出す。
例えば新宿通りのマルイの2階にあるスターバックスコーヒー。
かの店ではバリスタ（スターバックスではスタッフをこう呼ぶ）が全員、ブラックエプロンを着用する。
通常、スタバのエプロンといえば緑色だが、彼らはコーヒーの知識や経験が豊富な選ばれし精鋭たち。
その証しがブラックエプロンなのだ。
そして、彼らの”黒”に惹かれるように、連日、多くのお客が押し寄せる。
黒は格式を感じさせる色である。

●野次馬客の呼び寄せに成功した販売促進
日本マクドナルドが2013年1月に期間限定で実践したキャンペーンに「ENJOY！60秒サービス」なるものがあった。
会計を終えてから60秒以内に商品を渡すというキャンペーンだ。
カウンター上には砂時計が置かれ、時間がオーバーしたらビッグマックなどの無料券がもらえるルールだった。
これが思わぬ騒動を巻き起こす。
「60秒に間に合わせようとするあまり、商品が大変なことになっている！」と、次々に醜いバーガーの画像がSNS上にアップされたのだ。
チーズがはみ出ているもの、パティが抜けているものなど、批判の大合唱だった。
ところが……。
「どんな醜いバーガーが出てくるか、ちょっと行ってみる」
そんなやじうま客が店に殺到し、結果的に同キャンペーンは来客促進に役立ったのである。
批判している人たちも、どこかネタとして楽しんでいる向きすらあった。
好きの反対は嫌いではなく、無関心。
良くも悪くもマーケットの反応があれば、商品が安全なら、それで悪くない話なのだ。

●”昔ながらの”に弱いワタシ
夕食の買い物は済ませたはずなのに、つい肉屋の前にくると、その「昔ながらの～」のフレーズに足を止めてしまう。
「昔ながらの○○」
それは、単なるコロッケやスパゲッティ・ナポリタンを瞬時に魅力的な商品に変えてしまう、魔法のフレーズ。
普通にコロッケやナポリタンとして提供するよりも、針を振り切っている分、お客の食いつきが違う。
中身は何ら変わらなくても、である。
もし、あなたが新規商品や新規事業の開発を命じられて何もアイデアが浮かばなかったら、その逆。
とことん古い伝統を探ると、何かヒントが見えるかもしれない。

●一口に「格安」と言っても、売れる格安と売れない格安がある。
その違いは”理由”である。
人は単に安いだけの商品は、あまり買わない。
格安商品を買う場合には、必ず安いなりの理由に納得して、購入する。
例えば、通販で人気の商品に「訳ありタラコ」がある。
これが安いのは、皮が破けていたり、端が切れていたり、大きさがバラバラだったりと、正規商品にならないからである。
安い理由がはっきりしている。
でも味自体は正規商品と変わらない。
だから喜んでタラコを購入する人がいる。
人はただ安いというモノに対しては警戒心を持つ。
「安い」には理由を明確にしなくてはならない。
理由なき格安はNGである。