小悪魔な女

女を見つけたのは
駅近くの繁華街、雑踏の中。
声をかけてきた男へと
黒目がちな目を向け
小さく鼻を鳴らした所だった。

声をかけた男は
猫なで声にも近い話し方で
女の気を引こうとしている。
それでも傍から見て女の
気分がのっていないのは明らかだった。

「わかりやすい…」

思わず呟く声
その声に気づいたのか、女は
こちらへと顔を向ける。
大きな瞳は正面から見れば
どこか潤んだように見え、
薄く開いた唇は、
無意識の天性のものなのか、
それとも計算してなのか
男を惑わせるように
そっと笑みの形を作っている。

声をかけていた男をあっさりと無視し
こちらへと歩み寄ってきた。
そして目の前、小首をかしげ
悪戯っぽく舌を小さくだして見せる。

もしかしたら先ほどの男も
こうされて声を掛けたのでは？
自分も声をかけたら同じように
のる気のない反応をされるのでは？

ジィとこちらを見る女の瞳が
”声、かけてくれないの？”
”皆、私に触れようとするのよ、貴方もでしょう？”
”私と寝たいと思っているんでしょう？”
そう言っているように見えた。

周囲には気のないふりをしながら
隙があれば女に声をかけようと
チラチラとこちらを伺う視線も見える。

女の声をかけるなんて普段からも出来ないのに。
どちらかと言えば苦手なのに…。
短く、それでも深く息を吸うと

「…おいで…」

周囲も一瞬時間が止まったようで。
女の反応は…

クルン、と形よく丸まった尾が振られる。
どうもお気に召したようだ。
手を出してみると、濡れた鼻先を押し付け
匂いを嗅いでくる。
真っ白な柴犬、生後三ヶ月と書いてある。
モッフモフな毛で見事に丸まって見える身体
寄り目がちな瞳が嬉しそうにじゃれついてきた。

勝った！

何故かそう思いながら首筋をくすぐり
すぐにコロンと転がる毛玉のような身体を
もしゃもしゃと撫で回す。

カワイイよ～カワイイ、子犬はカワイイよぉ～
欲しいなぁ、犬。。。。

午後に見に行ったら
もうご主人様が決まっていました。
愛し合っていてもお金に負けました。